相続の相談は誰にする|内容から逆算する相談先の選び方
相続の相談先を「なんとなく信頼できそうな人」で選ぶと、専門外の分野で余計な費用がかかります。士業には業務範囲の線引きがあり、登記は司法書士、税は税理士、争いは弁護士と法律で決まっている部分がある。まず自分が何に困っているかを整理し、そこから相談先を決めるのが最短です。
困りごとから引く相談先
| 不動産の名義を変えたい | 司法書士。相続登記の専門。費用の目安は6万〜15万円程度+登録免許税(評価額×0.4%)。戸籍集めから遺産分割協議書の作成まで一括で頼めることが多い |
|---|---|
| 相続税がかかりそう | 税理士。基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)を超えるなら申告が必要。報酬は遺産総額の0.5〜1%程度が目安。相続税に慣れた事務所を選ぶ(税理士の中でも相続の経験差が大きい分野) |
| 相続人の間でもめている | 弁護士。他の相続人との交渉、遺産分割調停の代理ができるのは弁護士だけ。着手金20万〜30万円+報酬金(経済的利益の10%前後)が一般的 |
| 遺産分割協議書や書類を作りたい(争いなし・不動産なし) | 行政書士。戸籍収集、協議書の作成、預貯金の解約手続きの代行。5万〜15万円程度。登記と税務申告はできない |
| 相続放棄したい | 司法書士(書類作成)または弁護士(代理)。3万〜10万円程度。自分で申述すれば実費800円+切手 |
| 銀行・証券の手続きをまとめて任せたい | 信託銀行の遺産整理業務。手数料は最低100万円〜、遺産額の1〜2%と高め。すべてを一括で任せられる安心感が対価。士業に個別に頼む方が安く済むことが多い |
| 遺言を作りたい | 公証役場(相談無料)、司法書士・弁護士。遺言のガイド参照 |
| 認知症の親のお金 | 司法書士・弁護士。任意後見・家族信託の設計 |
まずは無料相談から
いきなり有料の依頼をする必要はありません。「自分のケースで何が必要か」を知るだけなら、無料の窓口で足ります。
- 法テラス
収入・資産が基準以下なら弁護士・司法書士に3回まで無料相談。民事法律扶助で費用の立替も - 各士業会の相談会
司法書士会・税理士会・弁護士会が定期的に無料相談を実施。自治体の広報に掲載される - 自治体の無料法律相談
市区町村役場で予約制。1回30分程度 - 税務署
相続税の一般的な相談は無料。電話相談センターもある。ただし節税の提案はしない - 法務局の登記手続案内
予約制・無料。書類の書き方は教えてくれるが個別事案の相談は不可 - 公証役場
遺言の相談は無料。作成すると手数料 - 金融機関・葬儀社のセミナー
無料だが商品販売や提携先紹介が目的のことがある。情報収集と割り切る
自分でできる範囲の線引き
| 自分でやりやすい | 役所の手続き、葬祭費・埋葬料の申請、年金の請求、保険金の請求、戸籍集め、解約、相続人が少なく争いのない相続登記 |
|---|---|
| 頼んだ方が早い | 相続人が多い・音信不通の人がいる、祖父母名義のまま(数次相続)、相続税の申告、不動産の特例の判定、未成年の子や認知症の相続人がいる |
| 必ず頼む | 相続人の間で対立している、多額の借金や連帯保証がある、期限が迫っている(3か月・10か月) |
相談に持って行くもの
手ぶらで行くと「まず資料を集めてきてください」で終わり、1回分の相談枠がむだになります。次のうちあるものだけ持って行けば、初回で具体的な話ができます。
- 亡くなった方の情報
死亡日、住所、本籍。戸籍があれば持参(なくても相談は可能) - 相続人の一覧
名前・続柄・年齢・住所。手書きの家系図で十分。音信不通の人がいればその旨も - 財産の概算メモ
預金がどの銀行にいくら程度、不動産の場所、保険、株。正確でなくてよい。基礎控除を超えるかの判断に使う - 固定資産税の納税通知書
不動産の場所と評価額がわかる。登記事項証明書があればなお良い - 遺言書
ある場合。自筆なら開封せずに持参(検認が必要) - 借金・督促状
負債の疑いがあれば関係書類を - 聞きたいことを3つ書いたメモ
30分の相談枠は短い。優先順位の高い質問から
依頼前に確認する7項目
- 費用の総額
「〇〇円〜」でなく、自分のケースでの見積もりを書面で。実費(登録免許税・戸籍代・郵送料)が含まれるかも確認 - 業務の範囲
どこまでやってくれるか。戸籍集めは自分か、銀行手続きは含むか、他士業への紹介は費用に含まれるか - 担当者
相談した人が担当するのか、別の担当者に引き継がれるのか - 連絡方法と頻度
電話かメールか、進捗の報告はあるか - 期間の見込み
いつまでに終わるか。期限(3か月・10か月・3年)に間に合うか - 取扱件数
年間何件扱っているか - 追加費用の条件
相続人が増えた、不動産が複数見つかった、といった場合の加算
避けたい相談先の見分け方
- 業務範囲を超えた提案をする
行政書士が「登記もできます」、税理士が「もめている件も交渉します」など。非弁行為・非司法書士行為にあたる可能性がある - 不安を煽る
「今すぐ契約しないと期限に間に合わない」「放置すると大変なことになる」と急がせる。期限は期限順ガイドで自分でも確認できる - 見積もりを書面で出さない
口頭の「だいたい〇〇万円」だけで進める - 紹介料が透明でない
「無料で専門家を紹介します」というサービスは、紹介先から手数料を得ている。それ自体は違法ではないが、紹介先が最適とは限らないことは意識する - セミナーの後に個別営業が強い
金融商品や不動産投資の販売が本来の目的のことがある
士業ごとの「できること」の線引き
| 司法書士 | 税理士 | 弁護士 | 行政書士 | |
| 相続登記 | ○ | × | ○ | × |
| 相続税申告 | × | ○ | △(税理士登録者) | × |
| 遺産分割の交渉・調停代理 | × | × | ○ | × |
| 遺産分割協議書の作成 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 戸籍の収集 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 相続放棄の書類作成 | ○ | × | ○(代理も) | × |
| 預貯金の解約手続き | ○ | △ | ○ | ○ |
表の×は法律で禁じられているもので、報酬を得て行えば違法です。「うちは何でもできます」と言われたら、この表と照らし合わせましょう。なお司法書士は、簡裁訴訟代理等の認定を受けていても、遺産分割の交渉代理はできません。
複数の専門家が必要なとき
「相続税の申告+不動産の登記+預貯金の解約」のように複数分野にまたがる場合、多くの事務所が提携先を紹介するワンストップ体制を持っています。窓口が1つで済む利点がありますが、紹介先の費用がまとめて請求されるため、内訳を分けて示してもらうことが大切です。分野ごとに自分で選ぶ方が安く済むこともあります。どちらを選ぶにせよ、内訳が見えていれば判断できます。
相談のタイミング
| 亡くなってすぐ(〜1か月) | 急がなくてよい。まず役所の手続きと葬儀の精算。ただし借金の疑いがあるなら早めに(3か月の期限) |
|---|---|
| 1〜2か月 | 財産の全体像が見えた段階が相談の適期。基礎控除を超えそうなら税理士へ。この時期なら、何を集めればよいかの指示をもらって残り8か月を使える |
| 3か月直前 | 相続放棄の判断。間に合わないなら期間伸長の申立て |
| 6か月以降 | 相続税の申告期限(10か月)まで残り4か月。この時期からの依頼は割増料金になる事務所もある |
| 期限を過ぎた | それでも相談する価値はある。期限後申告のペナルティを最小化する、更正の請求で払いすぎを取り戻す(5年以内)といった対応がある |
費用を抑える組み立て|部分依頼という方法
士業への依頼は「全部任せる」か「全部自分でやる」の二択ではありません。時間のかかる部分だけ切り出して頼む部分依頼が使えます。
| 戸籍集めだけ頼む | 本籍の移動が多い、兄弟姉妹相続で量が倍になる、というときに。1万〜5万円程度+実費。広域交付を使えば自分でも1日で集まることが多いので、まず自分で試してからでも遅くない |
|---|---|
| 遺産分割協議書の作成だけ頼む | 分け方は家族で決まっていて、書面だけ整えたい。3万〜8万円程度 |
| 登記の申請だけ頼む | 戸籍と協議書を自分で用意し、申請書の作成・提出のみ依頼する。一括で頼むより数万円下がる事務所がある |
| 申告書の確認だけ頼む | 相続税を自分で計算し、税理士のチェックだけ受ける。受ける事務所は限られるが、報酬は大きく下がる |
費用の用意が難しい場合は、法テラスの立替制度(分割で償還)のほか、遺産分割の完了後に相続財産から精算する前提で着手する事務所もあります。「払えないから相談しない」で3か月・10か月の期限を逃すことのほうが、よほど高くつきます。
二次相続まで見て相談する
父が亡くなり、母が全額を相続する。配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)が使えるので、一次相続の相続税はゼロにできることが多い分け方です。ただしその財産は、母が亡くなる二次相続でそのまま子に課税されます。二次相続に配偶者の軽減はなく、相続人が1人減るぶん基礎控除も600万円下がる。一次でゼロにする分け方は、二次まで合計すると高くつく場合がある。これが相続税でよく起きる逆転です。
基礎控除を超える家庭は、一次相続の協議の段階で「二次まで含めた試算」を税理士に求めましょう。頼まれる前にこの試算を出してくるかどうかは、相続に慣れた事務所の見分け方でもあります。
よくある質問
- 相続の相談は誰にすればよいですか
- 困っている内容で決まります。不動産の名義変更は司法書士、相続税は税理士、相続人間の争いは弁護士、書類作成のみは行政書士です。まず自治体や士業会の無料相談で「自分のケースに何が必要か」を確認してから、依頼先を選ぶのが効率的です。
- 司法書士と弁護士はどう違いますか
- 司法書士は登記の専門家で、相続登記や相続放棄の書類作成を行います。弁護士は他の相続人との交渉や調停・訴訟の代理ができる唯一の資格です。もめていなければ司法書士、対立があれば弁護士が基本の分かれ目です。
- 費用の相場はどのくらいですか
- 相続登記が司法書士で6万〜15万円程度+登録免許税、相続税申告が税理士で遺産総額の0.5〜1%程度、遺産分割の交渉が弁護士で着手金20万〜30万円+報酬金、信託銀行の遺産整理業務が最低100万円〜です。いずれも自分のケースでの見積もりを書面でもらいましょう。
- 無料相談だけで済ませられますか
- 相続人が少なく争いがなく、相続税もかからないケースなら、無料相談で方針を確認して自分で手続きすることは十分可能です。役所の手続き、年金・保険の請求、戸籍集め、単純な相続登記は自分でできます。
- 「無料で専門家を紹介」というサービスは使ってよいですか
- 紹介先から手数料を得る仕組みで、それ自体は違法ではありません。ただし紹介先が自分にとって最適とは限らないため、費用の見積もりと業務範囲を必ず自分で確認し、可能なら他の事務所とも比較しましょう。
- 配偶者がすべて相続すれば相続税はかからないと聞きました
- 配偶者の税額軽減で一次相続の税額はゼロにできることが多いですが、その財産は配偶者が亡くなる二次相続で子に課税されます。二次相続には軽減がなく基礎控除も下がるため、一次と二次の合計では高くつく場合があります。基礎控除を超える家庭は二次相続まで含めた試算を税理士に求めましょう。
あわせて確認
自分でできる手続きは期限順ガイドから各記事へ。海外資産や外国籍がからむ場合は国際相続の専門家選びも。相続税の要否は基礎控除の計算、登記は相続登記のガイド、争いを防ぐ生前の備えは遺言の基本に。
出典
この記事の制度の説明は、次の法令・公的資料にもとづいています(2026年10月確認)。個別のご判断は、司法書士・税理士などの専門家や各窓口にご確認ください。
- 法テラス『無料法律相談に関するよくあるご質問』
- 日本弁護士連合会『遺言・相続に関する弁護士会の法律相談窓口』
- 日本司法書士会連合会『司法書士総合相談センター』
- 日本税理士会連合会『税理士会の相談会に行ってみる』
- e-Gov法令検索『弁護士法』(第72条 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
※費用相場は一般的な目安で、事務所・地域・案件の複雑さにより異なります。本ページは一般的な説明で、現時点で広告・紹介料を伴うリンクは含まれていません。