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相続放棄の手続き — 3か月の期限と、先にやってはいけないこと

亡くなった方に借金があるかもしれない。あるいは、相続そのものに関わりたくない。そういうときに使うのが相続放棄です。期限は「自分が相続人になったと知った日から3か月」、窓口は家庭裁判所、費用は収入印紙800円です。このページでは、判断の順番・期限・費用・書類・落とし穴を、実際に動く順に並べます。

期限
3か月以内
相続を知った日から(熟慮期間)
窓口
家庭裁判所
亡くなった方の最後の住所地を管轄
裁判所に払う費用
800円
収入印紙+連絡用切手(数百円台)
取り消し
できない
受理後は撤回不可
先に一つだけ。放棄を少しでも考えているなら、亡くなった方の預金を引き出して使う・車や家財を売る・借金を返す、といった「財産の処分」をしないでください。相続を承認したとみなされ(法定単純承認)、放棄ができなくなることがあります。葬儀費用の支出のように判断が分かれる場面もあるため、迷ったら手を付ける前に司法書士・弁護士に確認するのが安全です。

まず、放棄すべきかを30分で見積もる

相続放棄は「借金が多いから」だけの制度ではありません。判断の軸は2つです。①プラスの財産とマイナスの財産、どちらが大きいか。②相続手続きに関わること自体を避けたいか(疎遠・遠方・親族間の争いを避けたい)。

見積もりの例 預金120万円+自動車(時価30万円)=プラス150万円。カードローン残債280万円+滞納家賃40万円=マイナス320万円。差し引き−170万円。単純承認すれば、この170万円を相続人が自分の財産から払うことになります。放棄すれば、プラスの150万円も受け取れませんが、マイナスも引き継ぎません。

数字が拮抗しているとき、あるいは負債の全体像がつかめないときは、あとで説明する「限定承認」か「熟慮期間の伸長」を使います。ここで大切なのは、3か月の期限を「判断の期限」ではなく「調査の期限」として使うことです。調べないまま3か月が過ぎれば、自動的に単純承認(すべてを相続)になります。

3か月の起算点 — 「亡くなった日」ではない

民法の条文は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」です。通常は亡くなったことを知った日がそれにあたるため、実務では死亡日から3か月を期限の目安にします。ただし次の場合は起算点がずれます。

費用 — 自分でやれば1,000円台、頼めば数万円台

収入印紙800円分(申述人1人につき)
連絡用郵便切手数百円〜1,000円程度。内訳は家庭裁判所ごとに指定される(例: 84円×数枚+10円×数枚)
戸籍・住民票の取得費1通450〜750円。配偶者・子の申述なら合計2,000〜3,000円程度
専門家に依頼する場合司法書士は書類作成で数万円台、弁護士は代理まで含めて数万〜10万円台が一般的な相場観。相続人が多い・期限が迫っている・債権者対応があると上がる
受理証明書1通150円(収入印紙)。債権者に放棄を説明するときに使う

結論、費用で迷う制度ではありません。迷うべきは「放棄するかどうか」の判断の方で、費用は判断を先延ばしにする理由になりません。

必要書類 — 誰が申述するかで変わる

基本セットは4点。これは配偶者と子(第1順位)が申述する場合です。

申述する人が孫・親・祖父母・兄弟姉妹・甥姪の場合は、「自分に相続権が回ってきたこと」を示す戸籍が増えます。たとえば兄弟姉妹が申述するなら、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍と、亡くなった方の父母の死亡がわかる戸籍が必要です。家庭裁判所のウェブサイトに立場別の一覧があるので、自分の立場の欄だけ確認しましょう。

戸籍は2024年3月から「広域交付」が始まり、本籍地が遠くても最寄りの市区町村窓口でまとめて請求できます(請求できるのは本人・配偶者・直系親族で、窓口に本人が出向く必要があります)。銀行の相続手続きと重なる書類なので、一度に多めに取っておくと二度手間になりません。

手続きの流れと日数の目安

死亡〜2週目通帳・郵便物・契約書を集め、財産と負債の一覧を作る。この間、財産に手を付けない
〜6週目借金が疑われるなら信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)に開示請求。郵送で1〜2週間
〜8週目放棄の方針を決める。次順位の相続人(親・兄弟姉妹)に一報
〜10週目申述書と戸籍をそろえて家庭裁判所へ提出(郵送可)。受付の控えは保管
提出後1〜2週間裁判所から「照会書」が届くことがある。質問(放棄の意思・財産処分の有無など)に答えて返送
その後1〜3週間受理されると「相続放棄申述受理通知書」が届く。必要なら受理証明書を申請(150円)

全体で1か月〜1か月半が一つの目安です。期限に効くのは「提出日」で、受理日ではありません。3か月ぎりぎりに提出しても、期限内に出していれば間に合います。

3か月に間に合いそうにないとき — 伸長の申立て

財産の調査が終わらない。海外の口座がある。相続人が多くて連絡が取れない。そういうときは、期限内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てます。費用は収入印紙800円と連絡用切手で、放棄の申述と同じ水準。認められれば数か月単位で期間が延びます。伸長は「放棄する」と決めていなくても出せる、というのがポイントです。放棄の判断を先送りにするための制度ではなく、判断材料を集めるための制度だと考えると使い方を間違えません。

誤解されやすい4つのこと

「放棄するなら、何もしなければいい」— 逆です

何もしないで3か月が過ぎると、法律上は「単純承認」、つまり借金も含めてすべて相続したことになります。放棄は、家庭裁判所に書類を出して初めて成立します。親族間で「私はいらない」と口約束したり、遺産分割協議書に「相続しない」と書いたりしても、それは債権者に対しては効きません。借金から逃れる目的なら、家庭裁判所の手続き一択です。

「葬儀代を故人の預金から出したら、もう放棄できない」— 程度による

社会通念上相当な範囲の葬儀費用を遺産から支出したことは「処分」に当たらない、とした裁判例があります。ただし、どこまでが相当かは個別判断で、香典で足りる範囲なのに高額な葬儀を遺産で賄ったようなケースは危険です。領収書を残し、支出の内訳を説明できるようにしておくこと。形見分けも、経済的価値の乏しい品は問題になりにくい一方、貴金属や美術品は「処分」と見られ得ます。

「放棄したら、親族には関係ない」— 相続権が移る

子が全員放棄すると親(直系尊属)へ、親もいなければ兄弟姉妹へ相続権が移ります。兄弟姉妹が亡くなっていれば甥・姪まで(一代限り)。借金がある場合、黙って放棄すると次順位の親族に督促が届きます。放棄の方針が固まった段階で一報を入れるのが、実務上の最低限の配慮です。

「放棄したら、亡くなった方に関わることは何もできない」— 受け取れるものがある

次の表のとおり、放棄しても受け取れるお金は少なくありません。

放棄しても受け取れるもの・残る義務

受け取れる(相続財産ではない)受取人指定のある死亡保険金葬祭費・埋葬料未支給年金・遺族年金(いずれも遺族固有の権利として請求)
受け取れない預貯金・不動産・車などの相続財産全般。高価な形見分けも慎重に
残ることがある義務放棄の時点で実際に住んでいる・管理している建物などは、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務が残る(民法改正・2023年4月施行)。空き家をそのまま放置してよいわけではない

相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を計算するときの「法定相続人の数」には、放棄した人も含めて数えます。放棄によって他の相続人の税額が不利になることは、この点では基本的にありません。一方、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、放棄した人自身が受け取った分には使えません。

補足
制度の説明としては「3か月以内に家庭裁判所へ」で尽きますが、実務で時間を食うのは裁判所ではなく戸籍集め負債の全体像の確認です。郵便物の確認と信用情報の開示請求は、放棄するかどうか決める前の、最初の2週間でやってしまうのが結局いちばん早く済みます。

限定承認という選択肢

プラスの財産の範囲内でだけ負債を引き継ぐ「限定承認」もあります。財産と負債のどちらが多いかわからない、あるいは自宅だけは残したいという場面で使われます。ただし、相続人全員が共同で申述する必要があり、財産目録の作成や債権者への公告、清算手続きと、放棄に比べて手続きがかなり重くなります。負債が明らかに多いなら放棄、判断がつかないなら専門家に相談、というのが現実的な整理です。

3か月以内にやることリスト

よくある質問

相続放棄の期限はいつまでですか
自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。通常は死亡を知った日から数えます。間に合わないときは、期限内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てます。
費用はいくらかかりますか
家庭裁判所に納める収入印紙が申述人1人につき800円分と、連絡用の郵便切手(数百円〜1,000円程度)です。戸籍の取得費が別に2,000〜3,000円程度。専門家に依頼する場合は数万円台からの報酬がかかります。
相続放棄をしても生命保険金は受け取れますか
受取人が指定されている死亡保険金は受取人固有の財産とされ、放棄をしていても原則として受け取れます。ただし相続税の計算上はみなし相続財産として課税対象に含まれ、放棄した人が受け取る分には非課税枠が使えません。
兄弟全員で放棄したいのですが、まとめて出せますか
申述は1人ずつですが、同じ家庭裁判所に同時に提出できます。添付書類のうち共通のもの(亡くなった方の戸籍など)は1通で足りる扱いが一般的です。提出前に裁判所へ確認すると無駄がありません。
放棄が受理された後に、プラスの財産が見つかりました
受理された放棄は原則として撤回できません。詐欺や強迫によるものなど限られた場合に取消しが認められるのみです。だからこそ、申述の前に財産調査を終えておくことが大切です。

あわせて確認 — 相続放棄をしても、葬祭費・埋葬料は葬祭を行った人に支給される給付のため申請できます。期限つき手続きの全体像は亡くなった後の手続き 期限順ガイド、口座が凍結されているときの当面のお金は銀行口座の仮払い制度をご覧ください。

※本ページは制度の一般的な説明です。個別の事情による判断は弁護士・司法書士にご確認ください。