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親が認知症になるとお金はどうなる — 凍結の仕組みと、4つの備え

亡くなったときに口座が止まることは知られていますが、亡くなる前に止まることはあまり知られていません。認知症などで判断能力が低下すると、本人名義の預金の引き出しも、実家の売却も、施設入居のための資金移動もできなくなります。家族であっても代われません。しかも、この対策は親の判断能力があるうちにしか打てない。このページでは、凍結が起きる仕組みと、4つの備えの費用・使い分けを整理します。

起きること
預金と不動産が動かせない
家族でも代われない
対策の期限
判断能力があるうち
失った後は法定後見のみ
費用の幅
0円〜80万円
代理人届は無料、家族信託は数十万円
法定後見の費用
月2〜6万円
専門職が就いた場合。本人が亡くなるまで続く

何が起きるのか — 凍結の実際

預金の引き出し窓口で本人の意思確認ができないと、金融機関は払い戻しに応じない。家族が代理で下ろすことも原則不可。キャッシュカードと暗証番号で引き出す運用は、金融機関に認知症を把握された時点で止まる
定期預金の解約まとまった資金が必要な場面(施設の入居金)ほど、本人確認が厳格で動かせない
実家の売却売買契約は本人の意思能力が必要。司法書士が本人確認をして意思能力に疑いがあれば登記できない。親の施設費用を実家の売却で賄う計画が破綻するのが典型例
保険の解約・変更契約者本人の手続きが必要。医療保険の給付金請求は指定代理請求人を設定していれば代理できる
相続対策生前贈与も遺言も新規にはできなくなる。相続が起きたときの遺産分割協議にも、本人(認知症の親が相続人の場合)は参加できず成年後見人の選任が必要
よくある破綻パターン 親が施設に入居することになり、入居一時金300万円と月22万円が必要。親の預金は1,200万円あるが引き出せない。実家を売って充てる計画も、売買契約ができず頓挫。結果、子が立て替えることになり、月22万円×3年=約800万円を負担。あるいは法定後見を申し立て(2〜4か月)、専門職後見人の報酬月3万円が親の死亡まで発生。どちらも、事前の備えがあれば避けられた支出です。

4つの備え — 費用と使い分け

① 金融機関の代理人届費用0円。多くの銀行に「代理人カード」「代理人指名手続き」がある。本人が元気なうちに、家族1人を代理人として届け出ておくと、日常の入出金を代われる。限度額があり、不動産や大きな資金移動には使えないが、まず全員がやるべき第一歩。取引のある銀行に電話で「代理人の届出をしたい」と聞く
任意後見契約契約時2万円前後(公正証書・登記)+発効後に監督人報酬月1〜3万円。判断能力が落ちた後、家庭裁判所が監督人を選任して発効。誰に頼むかを自分で選べるのが最大の利点。財産の管理と身上監護(施設契約など)を幅広くカバー
③ 家族信託(民事信託)初期費用30万〜80万円程度(信託財産の1%前後+登記費用が目安)。親が「委託者」、子が「受託者」となり、あらかじめ決めた財産(実家・一部の預金)の管理・処分を子に託す。実家の売却や積極的な運用ができるのが後見との違い。ランニングコストは基本的にかからない。信託口口座の開設に対応する金融機関が限られる点に注意
④ 生前贈与贈与税・不動産取得税・登録免許税(贈与は2.0%、相続は0.4%)がかかる。相続時精算課税や住宅取得等資金の特例を使う設計は税理士と。親の生活資金を減らすリスクがあるため、対策の主役にはしにくい

使い分けの目安: 実家の売却が視野にある、賃貸物件がある、財産が多い → 家族信託。財産は預金中心で、施設契約や医療費の支払いを任せたい → 任意後見。まず何かしたい、費用をかけたくない → 代理人届(①はどのケースでも併用の価値あり)。①+②、または①+③の組み合わせが実務では多くなります。

手を打てなくなる境界

境界は「契約の内容を理解できるか」です。医師の診断名(アルツハイマー型認知症など)がついていても、軽度で内容を理解できれば任意後見契約や家族信託は結べます。逆に、診断がなくても理解が難しければ結べません。判断するのは公証人や司法書士で、面談で本人の言葉を確認します。

境界を越えると、選択肢は法定後見だけになります。家庭裁判所が後見人を選び(親族が希望しても専門職が選ばれることが多い)、報酬は本人の財産から月2〜6万円程度、本人が亡くなるまで続きます。後見人は本人の財産を守る立場なので、相続対策や積極的な資産活用はできません。実家の売却も裁判所の許可が要ります。「使い勝手が悪い」と言われるのは、この保守性が理由です。

補足
この話題を親に切り出すのは、終活の中でもいちばん難しい部類です。「認知症になったら」は本人にとって受け入れにくい前提だから。実務でよく通るのは、制度の話ではなく「入院したとき困ったから」の話にすることです。「この前入院したとき、支払いを代われなくて困った。銀行に代理人の届けを出しておくと楽らしいよ」——費用0円の①から入り、②③は必要になったときに、が現実的な順番です。

いつ、何をするか

親が元気な今①代理人届を主要な銀行に出す。口座と保険の所在を一覧にする。実家の名義を確認する
物忘れが気になり始めた②任意後見契約または③家族信託を検討。専門家(司法書士・弁護士)に相談。この段階が最後のチャンス。あわせて遺言も同時に作ると効率的
診断を受けた(軽度)まだ契約できる可能性がある。急いで専門家に面談を。医師に「契約能力についての意見書」を書いてもらう例もある
判断能力が失われた法定後見の申立て(家庭裁判所・2〜4か月)。申立費用は収入印紙800円+鑑定費用(必要な場合5万〜10万円程度)+医師の診断書料

親のお金を家族が立て替えたときの記録

備えが間に合わず、子が施設費や医療費を立て替える場面は珍しくありません。そのとき必ずやっておくのが記録です。

誤解されやすいこと

「家族なら親のお金を管理できる」— 法律上の権限はない

子には親の財産を管理する法的な権限がありません。実際にはキャッシュカードで生活費を下ろしている家庭が多く、それが問題になるのは、①金融機関に把握されて止まる、②他のきょうだいから使い込みを疑われる、③相続時に使途の説明を求められる、という場面です。代理人届は、この3つ全部への予防になります。

「成年後見をつければ全部解決」— 制約も大きい

法定後見は本人保護の制度で、財産を「減らさない」ことが最優先です。親の預金から孫の学費を出す、実家をタイミングよく売る、生前贈与で相続対策をする、といったことはできません。始めたら本人が亡くなるまで続き、途中でやめられません。だからこそ、その前の段階の備えに価値があります。

チェックリスト

よくある質問

親が認知症になると本当に預金が下ろせなくなりますか
金融機関が本人の判断能力の低下を把握すると、本人確認ができないため払い戻しに応じなくなります。家族であっても法的な代理権はありません。日常的な入出金は代理人届を出しておけば代われますが、大きな資金移動や不動産の売却には別の備えが必要です。
家族信託と任意後見はどちらがよいですか
実家の売却や資産の積極的な活用を見込むなら家族信託、施設の契約や医療費の支払いなど身上監護も含めて任せたいなら任意後見が向きます。信託は初期費用30万〜80万円でランニングなし、任意後見は初期2万円前後で発効後に監督人報酬が月1〜3万円かかります。併用も可能です。
費用をかけずにできる対策はありますか
金融機関の代理人届(代理人カード)が無料でできる第一歩です。日常の入出金を家族が代われるようになります。あわせて口座・保険の一覧を作り、実家の名義を確認しておくだけでも、いざというときの動きがまったく違います。
もう認知症の診断が出ています。まだ間に合いますか
診断名があっても、契約の内容を理解できる程度であれば任意後見契約や家族信託を結べる場合があります。判断するのは公証人や司法書士との面談です。急いで専門家に相談してください。理解が難しい段階になると、法定後見しか選べなくなります。
法定後見はどのくらい費用がかかりますか
申立てに収入印紙800円と医師の診断書料、鑑定が必要な場合は5万〜10万円程度。選任後は専門職が就くと報酬が月2〜6万円程度、本人の財産から本人が亡くなるまで支払われます。親族が後見人になれば無報酬にできますが、選任は家庭裁判所が決めます。

あわせて確認 — 親の口座と保険の所在は確認リスト30項目、実家の名義は名義確認のしかた、契約の詳細は任意後見契約のガイド、施設費用の見通しは親の施設選びへ。亡くなった後の口座凍結は銀行口座のガイドに。

※費用は一般的な目安で、依頼先・財産額により異なります。本ページは制度の一般的な説明で、認知症の診断や治療については医師にご相談ください。