相続税の申告は必要か — 基礎控除の計算と、10か月の段取り
「うちは相続税がかかるのか」。亡くなった後、遺族がいちばん聞きにくく、いちばん早く知りたいことの一つです。答えの出し方は一つで、遺産の合計が基礎控除を超えるかどうか。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。相続人が3人なら4,800万円で、これを超えなければ相続税はかからず、多くの場合は申告も不要です。このページでは、財産の数え方、計算例、10か月の期限、そして「税額がゼロでも申告が要る」例外を整理します。
基礎控除 — まず人数を数える
法定相続人の数え方には、3つのルールがあります。
- 相続放棄をした人も人数に含める(放棄がなかったものとして数える)
- 養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで人数に含める
- 代襲相続(子が先に亡くなり孫が相続)では、代襲した孫の人数を数える
財産の数え方 — 何を足して、何を引くか
| 足すもの |
・預貯金(死亡日の残高)、現金、有価証券(死亡日の時価) ・不動産(土地は路線価または倍率方式、建物は固定資産税評価額) ・みなし相続財産: 死亡保険金と死亡退職金(それぞれ「500万円×法定相続人の数」を超えた部分) ・亡くなる前3年以内に相続人が受けた贈与(2024年以降の贈与から段階的に7年以内まで拡大。2027年以降の相続から延長分が効き始める) ・相続時精算課税で贈与された財産、その他(車・貴金属・ゴルフ会員権・貸付金・未収の高額療養費や還付金など) |
|---|---|
| 引くもの |
・借入金・未払いの税金・未払いの医療費(死亡後に相続人が払った入院費を含む)=債務控除 ・葬式費用(通夜・告別式・火葬・納骨・お布施。香典返し・初七日以降の法要・墓石は含まない) |
| 数えないもの | 墓地・仏壇・仏具(祭祀財産)、国・地方公共団体などへの寄付、死亡保険金・退職金の非課税枠の範囲内 |
不動産の評価がいちばん難しい部分です。土地は「路線価×面積」が基本で、路線価は国税庁のサイトで確認できます。固定資産税評価額の約1.14倍が路線価の目安、という概算もありますが、形状や道路付けで変わるため、基礎控除に近い場合は税理士の評価が必要になります。
計算例 — 3つのパターン
税額ゼロでも申告が必要な2つの特例
| 配偶者の税額軽減 | 配偶者が取得した財産が1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い方まで相続税がかからない。ただし申告書の提出と遺産分割の確定が条件 |
|---|---|
| 小規模宅地等の特例 | 亡くなった方が住んでいた土地(330㎡まで)を配偶者や同居の子などが取得すると評価額が80%減。事業用(400㎡まで80%減)・貸付用(200㎡まで50%減)も。申告が条件 |
「特例を使ったらゼロになるから申告しなくていい」は、いちばん高くつく誤解です。申告しなければ特例は適用されず、特例なしの税額で課税される可能性があります。基礎控除を超えるなら、税額がゼロになる見込みでも10か月以内に申告します。
誤解されやすいこと
「相続税は金持ちの話」— 都市部の持ち家は射程に入る
基礎控除が2015年に4割下がってから、課税される相続は全体の1割近くに増えました。東京の住宅地で土地の評価が3,000万円を超えれば、預金と保険を足して基礎控除に届く家庭は珍しくありません。だからこそ小規模宅地の特例があり、その特例には申告が要ります。
「申告不要なら何もしなくていい」— 書類は残す
申告不要でも、税務署から「相続についてのお尋ね」が届くことがあります。財産の一覧と計算の根拠(残高証明・評価の資料)を残しておけば、数行で回答できます。基礎控除以下と判断した根拠を、1枚にまとめておきます。
税率の仕組み
課税遺産総額を法定相続分で分けたと仮定して、各人の取得額に税率(10%〜55%の8段階)をかけて合計する方式です。取得額1,000万円以下は10%、3,000万円以下は15%(控除50万円)、5,000万円以下は20%(控除200万円)、1億円以下は30%(控除700万円)と上がっていきます。配偶者・子・親以外(兄弟姉妹・孫など)が取得する分は2割加算。税率表は国税庁サイトの最新版で確認してください。
10か月の段取り
| 〜2か月 | 戸籍で相続人を確定。遺言の有無を確認。財産と債務の一覧を作り、基礎控除を超えそうかを概算 |
|---|---|
| 〜4か月 | 超えそうなら税理士に相談(この時点で)。残高証明・不動産の評価資料・保険金の支払通知を集める。準確定申告の期限もここ |
| 〜8か月 | 遺産分割協議をまとめる(協議書に全員の実印)。分割が決まらないと配偶者の軽減・小規模宅地の特例が使えないため、ここが山場 |
| 〜10か月 | 申告書を税務署へ提出し、納税(原則現金一括。困難なら延納・物納の申請)。分割がまとまらない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて法定相続分で仮申告し、後で更正の請求 |
税理士に頼むか — 目安と費用感
- 自分でできる目安 — 財産が預金と保険だけ、基礎控除を明らかに下回る、相続人の関係が単純。この場合は申告自体が不要なことが多く、税務署の電話相談で確認できる
- 頼んだ方がよい目安 — 不動産がある(評価で税額が変わる)、基礎控除の前後にある、特例を使う、相続人に非協力的な人がいる、海外資産や自社株がある
- 費用感 — 遺産総額の0.5〜1%程度が一般的な目安。遺産5,000万円なら25万〜50万円前後。不動産の数・相続人の数で加算。申告期限まで3か月を切ると割増になることも
遅れたとき・間違えたとき
- 期限後申告 — 無申告加算税(税額の5〜20%)と延滞税。税務署から指摘される前に自主的に申告すれば加算税は軽くなる
- 申告漏れ — 過少申告加算税(10〜15%)。後から財産が見つかったら修正申告
- 払いすぎ — 申告期限から5年以内なら更正の請求で取り戻せる。不動産の評価を見直して減額になるケースがある
- 納税資金がない — 延納(年払い・利子税あり)や物納(不動産などで納める)の制度。期限内に申請が必要
チェックリスト
- 法定相続人の数を確定した(放棄した人も含める。養子の数え方を確認)
- 基礎控除額(3,000万円+600万円×人数)を計算した
- 預貯金・有価証券・不動産・保険金・退職金・生前贈与を一覧にした
- 債務と葬式費用を差し引いた(領収書を保管)
- 基礎控除を超えるか、前後にあるかを判定した。超えそうなら4か月目までに税理士へ
- 配偶者の税額軽減・小規模宅地の特例を使うなら「税額ゼロでも申告」と認識した
- 遺産分割協議を8か月目までにまとめる計画を立てた
- 10か月の期限と納税方法(現金・延納・物納)を確認した
よくある質問
- 相続税はいくらからかかりますか
- 遺産の合計が基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合です。相続人が配偶者と子2人なら4,800万円、子1人なら3,600万円が目安です。超えなければ相続税はかからず、特例を使わない限り申告も不要です。
- 相続税の申告期限はいつまでですか
- 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、亡くなった方の住所地を所轄する税務署へ申告し、納税します。
- 配偶者が全部相続すれば相続税はかかりませんか
- 配偶者の税額軽減で1億6,000万円または法定相続分まで税額はゼロになりますが、申告が必要です。また次の相続(配偶者が亡くなったとき)の税負担が重くなることがあるため、二次相続まで見て分け方を決めるのが一般的です。
- 死亡保険金は相続税の対象ですか
- みなし相続財産として対象です。ただし受取人が相続人なら「500万円×法定相続人の数」まで非課税です。受取人が相続放棄をした人の場合は非課税枠が使えません。
- 生前にもらった贈与は相続税に関係しますか
- 亡くなる前3年以内に相続人が受けた贈与は相続財産に加算されます。2024年以降の贈与から段階的に7年以内まで延長されます(2027年以降の相続から延長分が影響)。相続時精算課税を選んでいた贈与も加算対象です。
※税率・特例・加算期間は法改正で変わります。本ページは制度の一般的な説明です。具体的な税額は税理士または税務署にご確認ください。