デジタル終活の実践 — 30分でできる5つの設定から
紙の通帳や証書と違い、デジタルの資産と契約は存在自体が家族から見えません。スマホのロックが解けないだけで、連絡先も写真も口座も止まったままになります。ここでは、読んだその日にできる設定から順に、実際の手順を並べます。全部やる必要はありません。上から3つやれば、家族の負担は大きく変わります。
最優先
スマホの解除方法
ここが開かないと何も進まない
Google
アカウント無効化管理ツール
指定した人に自動で通知
Apple
故人アカウント管理連絡先
iPhoneの設定から5分
書かない場所
遺言書
公開され、変更もできない
1. スマホが開かないと、何も始まらない
家族が最初にぶつかる壁がここです。キャリアショップでもメーカーでも、ロックの解除はしてもらえません。中に入れないまま、写真も連絡先も失われます。
- 解除方法を1つだけ残す — パスコードそのものを書いた紙を、通帳や実印と同じ場所(金庫・仏壇の引き出しなど)に保管する。「どこに書いてあるか」を家族が知っていることが要点
- 顔認証・指紋だけに頼らない — 本人が亡くなれば使えません。iPhoneもAndroidも、パスコードの入力を10回連続で間違えるとデータが消去される設定があるため、当てずっぽうは危険です
- キャリアの死後サポート — 契約の解約や請求停止は家族でもできますが、端末の中身は別問題です
- 入院の場面でも同じ — 意識がない状態でも同じことが起きます。入院時の連絡にも関わるため、家族間で「もしものときはここを見て」を共有しておく
2. Googleアカウントの設定(15分)
Gmail・写真・ドライブ・YouTube・連絡先が入っています。アカウント無効化管理ツールで、一定期間ログインがなければ指定した人に通知とデータの一部を渡す設定ができます。
| 設定場所 | Googleアカウント → データとプライバシー → アカウント無効化管理ツール |
|---|---|
| 待機期間 | 3・6・12・18か月から選ぶ。期限が近づくと本人に確認の連絡が来る |
| 通知する相手 | 最大10人まで登録。相手のメールアドレスと電話番号が必要 |
| 渡すデータ | Gmail、フォト、ドライブなどサービスごとに選択できる |
| アカウントの削除 | 待機期間の経過後に自動削除するかを選べる。削除すると写真も戻らないので、渡す設定を先に |
3. Appleアカウントの設定(5分)
| 設定場所 | iPhoneの 設定 → 自分の名前 → サインインとセキュリティ → 故人アカウント管理連絡先 |
|---|---|
| できること | 亡くなった後、指定した人がアクセスキーと死亡診断書等を提出することで、写真・メモ・iCloudのデータにアクセスできる |
| 注意 | アクセスキーは相手に渡しておく(印刷またはメッセージ送信)。渡していないと使えません |
| 対象外 | 購入した映画・音楽などのライセンス、キーチェーンに保存されたパスワードは引き継げない |
補足
この2つの設定は、実は本人が生きているうちの事故にも効きます。長期入院で意識が戻らない、認知症で操作できない、といった状況でも家族が写真や連絡先にたどり着ける。「死後」の話だと思うと後回しになりますが、「自分が説明できなくなったとき」の設定だと考えると、優先順位が変わるはずです。所要時間は合わせて20分です。
4. お金に関わるものを洗い出す
紙の通帳がないものは、存在に気づかれないまま放置される危険があります。相続手続きでも、申告漏れの原因になります。
- ネット銀行 — 銀行名だけをメモに残す。残高やパスワードは不要。名前がわかれば家族は相続手続きに進めます
- ネット証券・NISA・iDeCo — 証券会社名。株式は現金では受け取れず、相続人が口座を開いて移す必要があります
- 暗号資産 — 取引所名。秘密鍵やシードフレーズを失うと、誰にも取り出せません。相続税の課税対象にはなります
- スマホ決済・ポイント — 残高が引き継げるもの(一部の電子マネー)と、失効するものがある。1件数千円〜10万円でも、5件6件と積もると額が変わってきます
- ネット上の借入 — カードローン、後払い決済。負債も相続されます
- 売上のあるもの — アフィリエイト、ネットショップ、動画広告収入。準確定申告の対象になり得ます(4か月以内)
5. 契約中のサブスクを一覧にする
放置すると亡くなった後も引き落としが続きます。カード会社に死亡を伝えてカードを止めれば決済は止まりますが、契約そのものは残るため、後から請求が来ることもあります。
| 洗い出し方 | クレジットカードの明細12か月分と、スマホのApp Store / Google Play の定期購入一覧を見る。これでほぼ全部出ます |
|---|---|
| 動画・音楽 | 月500〜2,200円。家族で共有していることもあるので、解約前に確認 |
| クラウド保存 | iCloud、Googleワンなど。解約すると写真が消えるため、保存してから止める |
| 通信・回線 | 携帯、光回線、プロバイダ。解約に本人確認や違約金がある(解約手続きのガイド) |
| アプリ内課金 | ゲーム、健康アプリ、ニュース。金額が小さく見落とされやすい |
| レンタルサーバー・ドメイン | 年5,000〜20,000円の年払いで、気づくのが1年後になりやすい。サイトを運営しているなら管理者情報も残す |
6. SNSをどうするか決める
- 追悼アカウントにする — Facebookは追悼アカウント管理人を事前に指定できる。Instagramも申請で追悼アカウント化が可能
- 削除する — 家族が死亡を証明する書類を提出して申請する。手続きにはサービスごとの様式があります
- 何もしないと — アカウントは残り続けます。誕生日の通知が友人に届き続ける、乗っ取りの標的になる、といったことが起こります
- 希望を書き残す — 「削除してほしい」「残してほしい」をエンディングノートに1行。家族は判断に迷います
- 見られたくないもの — 生前に自分で整理しておくのが唯一の方法です。家族に「消して」と頼むのは酷な依頼になります
相続では、どう扱われるのか
「デジタルだから相続とは無関係」ではありません。財産的な価値があるものは、紙の資産とまったく同じ扱いです。
| ネット銀行の預金 | 通常の預金と同じ。相続財産として基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数の判定に含む |
|---|---|
| ネット証券の株式・投信 | 相続財産。相続人が同じ証券会社に口座を開いて移すのが原則で、手続きに1〜2か月かかることもある |
| 暗号資産 | 相続財産として課税対象。取り出せなくても課税されうる点が最大の問題。取引所と保有の事実だけは必ず残す |
| ポイント・マイル | 規約次第。相続可能なものと、死亡により失効するものに分かれる |
| ネットの売上 | 亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得は準確定申告(4か月以内)、その後の入金は相続人の所得 |
| サブスクの未払い | 債務として相続。金額が小さくても、放置すると請求が続く |
| 期限 | 相続放棄3か月、準確定申告4か月、相続税10か月。口座の存在に気づくのが遅れると、この期限に間に合わない |
パスワードの残し方 — やってよい方法と、だめな方法
| ◎ 紙に書いて保管 | 通帳・実印と同じ場所に。置き場所を家族が知っていることが条件。最も確実で、費用もかからない |
|---|---|
| ◎ パスワード管理アプリ | マスターパスワード1つだけを紙に残せばよい。緊急アクセス機能のあるサービスなら、指定した人が一定期間後にアクセスできる |
| ○ 分けて預ける | 一覧は自宅、解錠方法は信頼できる人、のように分散させる |
| × 遺言書に書く | 絶対に避ける。遺言書は相続人全員が見るもので、公正証書なら公証役場に保管され内容の変更に手間がかかる。パスワードは変わるものなので、性質が合いません |
| × メールの下書きに保存 | そのメールアカウントに入れなければ意味がない |
| × 家族に口頭で伝えるだけ | 覚えていられません。必ず形にする |
最小構成 全部やる必要はありません。①スマホのパスコードを紙に書いて金庫へ ②Googleのアカウント無効化管理ツールを設定 ③Appleの故人アカウント管理連絡先を設定 ④ネット銀行と証券会社の「名前だけ」をメモ ⑤サブスクの一覧をカード明細から作る。この5つで合計およそ2時間、費用は0円です。家族が困る度合いは、これだけで大きく下がります。
チェックリスト
- スマホのパスコードを紙に残し、保管場所を家族に伝えた
- Googleのアカウント無効化管理ツールを設定した(通知先と待機期間)
- Appleの故人アカウント管理連絡先を設定し、アクセスキーを相手に渡した
- ネット銀行・ネット証券・暗号資産の「サービス名」を書き出した
- カード明細とアプリの定期購入から、サブスクの一覧を作った
- SNSを削除するか残すかを決めて書いた
- パスワードの残し方を決めた(遺言書には書かない)
- 見られたくないデータを自分で整理した
よくある質問
- スマホのパスコードは家族に教えておくべきですか
- 紙に書いて、通帳や実印と同じ場所に保管し、その場所を家族が知っている状態にしてください。ロックが解けないと連絡先も写真も口座の手がかりも失われますが、キャリアやメーカーは解除に応じません。顔認証や指紋は本人がいないと使えないため、必ずパスコードを残してください。
- パスワードを遺言書に書いてもよいですか
- 避けてください。遺言書は相続人全員が目にするもので、公正証書は公証役場に保管され内容の変更にも手間がかかります。パスワードは変わるものなので性質が合いません。紙に書いて保管するか、パスワード管理アプリのマスターパスワードだけを残す方法が現実的です。
- ネット銀行や証券口座は、家族にどこまで伝えればよいですか
- サービス名だけで十分です。残高やパスワードは不要で、金融機関名がわかれば家族は正規の相続手続きを進められます。逆に名前がわからないと、口座の存在自体に気づけません。
- サブスクは亡くなった後も引き落とされますか
- 解約しない限り続きます。カード会社に死亡を伝えてカードを止めれば決済は止まりますが、契約自体は残るため後から請求が届くことも。洗い出しは、クレジットカードの明細12か月分とスマホの定期購入一覧で足ります。
- SNSは放置するとどうなりますか
- アカウントは残り続け、誕生日の通知が友人に届いたり、乗っ取りの標的になったりします。Facebookなら追悼アカウント管理人を事前に指定でき、家族からの申請による削除も可能。削除か存続かの希望を1行書き残しておけば、家族は迷いません。
あわせて確認 — 書き出す先はエンディングノート、モノと情報の整理は生前整理、家族側の対応はデジタル遺品の手続き、契約の止め方は解約手続きへ。全体の進め方は終活の始め方に。
※各サービスの機能名・手順は変更されることがあります。設定は各サービスの公式ヘルプでご確認ください。