生前整理のやり方|モノ・情報・お金を、週末90分ずつ身軽にする
生前整理というと「持ち物を捨てること」だと思われがちですが、家族が本当に困るのはモノではありません。遺品整理は業者に頼めば数日で終わる。終わらないのは、どこに何があるかわからない「情報」と、散らばった「お金」の整理です。やり方は週末1回90分、モノ・情報・お金の順で、3か月で一巡します。何歳から始めても早すぎることはありません。
順番はモノからでいい。ただしゴールは情報
達成感が出やすいのはモノの整理です。だから最初はモノでいい。ただし、やりながら「これはどこにあるか、家族は知っているか」と自問し、最終的に1枚の「ありかリスト」に集約するのがゴールです。リストの書き方はエンディングノートの5項目と同じ。生前整理はノートの「素材集め」でもあります。
領域① モノ|三分法と、場所別の90分メニュー
- 三分法
「使っている」「思い出」「それ以外」。捨てるのは「それ以外」だけ。思い出の品は今は箱に集めるだけでよい(後述) - 1年ルール
1年使わなかった日用品・服・食器は「それ以外」へ。例外は冠婚葬祭用品と防災用品 - 保留箱
迷ったら段ボール1箱に入れ、日付を書いて1か月後に見直す。1か月開けなかった箱は、中身を見ずに手放せることが多い - 90分メニューの例
第1回: 玄関と靴箱/第2回: 洋服(ハンガー50本まで等の上限を決める)/第3回: 食器棚/第4回: 本・雑誌/第5回: 押し入れ上段/第6回: 台所の下段と賞味期限切れ。1回1か所、広げすぎない - 出口を先に決める
自治体の粗大ごみ(1点数百円〜2,000円)、家電リサイクル(3,000〜6,000円)、寄付、買取。出口が決まらないモノは玄関に滞留して挫折の元
領域② 情報|書類1箱と、デジタルの4設定
- 重要書類を1か所に
年金手帳(基礎年金番号通知書)・保険証券・権利証・実印と印鑑登録カード・パスポート・マイナンバーカード・預金通帳。ファイルボックス1つに集約し、置き場所を家族に伝える - 捨ててよい書類
期限切れの保証書、5年超の給与明細・公共料金の領収書(確定申告に使ったものは7年目安)、古い年賀状(住所録に転記してから)。捨ててはいけないのは不動産の購入時契約書(売却時の税金に直結)・保険証券・年金関係 - デジタルの4設定
写真の自動バックアップON/Appleの故人アカウント管理連絡先/Googleのアカウント無効化管理ツール/スマホのパスコードのありかをノートに。詳細はデジタル遺品のガイドの「生前にできる備え」 - 写真・アルバム
生前整理で最も時間を食う。全部やろうとせず、「ベスト100枚を選んでデータ化」だけを目標に(自分でやるならスキャンアプリ、頼むなら業者やカメラ店で1枚10円前後〜数十円)。残りのアルバムは思い出箱へ。見返して手が止まる日があってよく、それも整理の一部
領域③ お金|集約・解約・棚卸し
- 口座の集約
使っていない口座を解約し、メイン1+サブ1+ネット1程度に。口座が1つ減るごとに、将来の相続手続きが1行分(戸籍一式の提出1回分)減る。10年放置の口座は休眠預金になる前に - サブスク・定期購入の解約
カード明細12か月分を見て、使っていないものを解約。月500円×3本の解約は年18,000円 - クレジットカードの整理
年会費のあるカード・使っていないカードを解約し2枚程度に。家族カード・ETCカードの紐づきも確認 - 保険の棚卸し
何の保険にいくら払い、受取人は誰か一覧にする。受取人が親のまま・前配偶者のままは典型的な直し漏れ(保険の見直し) - 実家・不動産
名義と抵当権の確認(確認のしかた)。自分名義の家があるなら、権利証と購入時契約書を書類ボックスへ - 財産の一覧=財産目録の素案
口座・保険・不動産・証券の「名前と場所」の一覧を作る。金額は書かなくてよい。これが遺言を書くときの財産目録の下書きになる
捨てにくいもの、5つの判断基準
三分法で手が止まるのは、決まって同じ品目です。「思い出」箱に入れて後回しにするのが原則ですが、最後にはその箱を開けることになります。品目ごとに、判断の物差しを用意しておきましょう。
| 写真 | 全部を残そうとするから終わらない。「人が写っていて、誰か分かるもの」だけを残し、風景・重複・ピンぼけは手放す。アルバム10冊が1冊になれば、家族は見てくれます。デジタル化するなら、スキャンは業者に頼むと1枚10円前後〜数十円 |
|---|---|
| 手紙・年賀状 | 差出人が今も付き合いのある人なら住所録として機能します。連絡先を書き写してから処分すれば、情報は残ります。特に大切な数通だけを封筒にまとめる |
| 贈り物・引き出物 | 「くれた人に悪い」で残しているものは、くれた人も覚えていません。未使用なら寄付やリサイクルへ。使っていないことが、すでに答えです |
| 趣味の道具・コレクション | 本人にしか価値が分からず、遺族がいちばん処分に困る品です。引き継ぐ相手を自分で探すのが、いちばんの供養になります。同じ趣味の仲間、教室、専門の買取店。譲り先が決まらないものは、写真に残して手放す |
| 親や配偶者の遺品 | 自分が整理できなかったものを、次の世代に回すことになります。一つだけ形見を選び、残りは供養して処分する。「全部取っておく」は、判断を先送りしているだけです |
売れるもの・売れないものの現実
「せっかくだから売りたい」と考えると、整理が止まります。買取の現実を先に知っておくと、時間を無駄にしません。
- 値がつくもの
貴金属(地金の相場で必ず値がつく)、ブランドの時計・バッグ、カメラ・楽器・オーディオ、製造5年以内の家電、切手・古銭のうち希少なもの。これらは複数の買取店で査定する価値があります - ほぼ値がつかないもの
着物(有名作家もの以外は数百円単位)、食器・漆器(贈答品の未使用でも)、家具(アンティーク以外)、本(全集・百科事典は引き取り不可も)。ここに時間をかけるより、寄付か処分のほうが早い - 出張買取の「まとめて引き取ります」
貴金属だけ安く抜かれる形が多い。貴金属は別の店で単独査定し、残りを引き取ってもらう順番にしましょう - フリマアプリ
手間の割に一点数百円になりがち。売る時間の時給を一度計算してみると、寄付や処分に切り替える判断がつきます
3か月のモデルスケジュール
| 1か月目(モノ) | 週末90分×4回: 玄関→洋服→食器→本。保留箱を作る。買取・処分の出口を決める |
|---|---|
| 2か月目(情報) | 週末90分×4回: 書類を1箱に集約→捨てる書類の処分→デジタルの4設定→写真ベスト100の選定開始 |
| 3か月目(お金) | 週末90分×4回: カード明細の棚卸しとサブスク解約→使わない口座の解約→保険の一覧と受取人確認→ありかリスト1枚に集約、家族に場所を伝える |
| 以後 | 年1回(誕生日か年末)に90分だけ更新。エンディングノートの更新と同じ日に |
家族と一緒にやる場合の役割分担
- 判断は本人、運搬は家族
「残す・手放す」を決められるのは本人だけ。家族が先回りして捨てると、信頼ごと失う。家族の仕事は箱を2階から下ろすこと、出口(粗大ごみ予約・買取店への持ち込み)を引き受けること - 「ありかリスト」は一緒に作る
本人が読み上げ、家族が書く形にすると、1〜2時間で一気に進む。親の30項目の確認と同じ場が使える - ペースを尊重する
写真や手紙で手が止まる日は、それで終わってよい。90分で1か所の原則は、家族が急かさないための約束でもある - 遠方の家族はオンラインで
ビデオ通話で棚を映しながら「これは?」と聞くだけでも進む。帰省の回数より、通話の頻度のほうが役に立つ
やってはいけない生前整理
- 家族のモノを勝手に捨てる
配偶者・子の私物は本人の領域。もめる原因の第1位 - 財産の独断の大移動
「長男の口座に移しておく」等の生前の資金移動は、贈与税や、相続時の「使い込み」疑いの原因になる。財産を動かす判断は遺言や生前贈与の制度(税理士に相談)で行う。整理は「一覧を作る」まで - 高額な「生前整理パック」への一括依頼
業者に頼む価値があるのは大型家具の搬出・大量の処分など体力仕事。判断(残す・捨てる)まで外注はできない。見積もりの相場観は遺品整理の費用ガイドと同じ(現地・書面・3社) - 「全部デジタル化」への過信
権利証・保険証券など原本が必要な書類はスキャンしても捨てられない。デジタル化は写真と思い出向き、権利書類は原本保管
誤解されやすいこと
「生前整理は60代から」|情報とお金の整理は今日から効く
ありかリスト・口座の集約・デジタルの4設定は、年齢に関係なく、明日の入院や事故のときに家族の助けになります。モノの整理は体力のあるうちほど楽で、70代で2階の荷物を下ろすより、50代で下ろす方が安全です。
「捨てるのが目的」|残すものを決めるのが目的
三分法の要は「思い出」箱の存在です。捨てる作業の途中に思い出が混ざると手が止まる。だから思い出は箱に集めて後回しにし、まず「それ以外」を減らす。最後に残った思い出の箱こそ、遺品整理で家族が探す「宝」の在り処になります。
チェックリスト|一巡の到達点
- 保留箱の仕組みで、玄関・洋服・食器・本を一巡した
- 重要書類(年金・保険・権利証・通帳・印鑑)をボックス1つに集約した
- 不動産の購入時契約書・権利証の有無と場所を確認した
- デジタルの4設定(バックアップ・Apple・Google・パスコードのありか)を済ませた
- 使わない口座・カード・サブスクを解約し、口座を2〜3本に集約した
- 保険の一覧と受取人を確認した
- 「ありかリスト」1枚を作り、家族に場所を伝えた
- 年1回の更新日を決めた(エンディングノートと同じ日)
よくある質問
- 生前整理は何から始めればよいですか
- 達成感の出やすいモノ(玄関・洋服など1か所90分)から始め、ゴールは「ありかリスト1枚」に置きます。家族が本当に困るのはモノではなく、書類・口座・デジタルの所在がわからないことだからです。
- 捨てるかどうか迷うものはどうしますか
- 保留箱に入れて日付を書き、1か月後に見直します。思い出の品は捨てる対象にせず、箱に集めて最後に回します。1年使わなかった日用品は手放す、査定0円なら処分、と基準を先に決めると流れが止まりません。
- 業者に頼むべきですか
- 大型家具の搬出や大量処分などの体力仕事は頼む価値があります。残す・捨てるの判断は本人にしかできないため、判断まで含めた高額パックは不要です。見積もりは現地・書面・3社比較が基本です。
- 銀行口座はいくつまで減らすべきですか
- メイン・サブ・ネットの2〜3本が目安です。口座が1つ減るごとに、将来の相続手続きで金融機関1行分の書類提出が減ります。10年出し入れのない口座は休眠預金になる前に解約を。
- 生前整理とエンディングノートはどちらが先ですか
- 並行が正解です。整理で見つかった口座・保険・書類の場所をそのままノートの「所在」欄に書けば、ノートの一番重要な部分が自動的に埋まります。生前整理はノートの素材集めでもあります。
あわせて確認
集めた「ありか」を書き残すエンディングノートの書き方、財産の行き先を決める遺言の基本、お墓の整理はお墓の選び方と墓じまいへ。親の家の整理を手伝う立場なら実家の片付けを親と進める、親が元気なうちに確認する30項目と遺品整理のガイドに。
出典
この記事の制度の説明は、次の法令・公的資料にもとづいています(2026年10月確認)。個別のご判断は、司法書士・税理士などの専門家や各窓口にご確認ください。
※処分費・買取相場は地域・品目で異なる一般的な目安です。本ページは一般的な説明です。