親が入院したとき — 最初の3日と、退院までの段取り
「お母さんが倒れて救急搬送されました」。この電話から始まる数日は、情報も判断も追いつきません。ここでは、病院で求められること、お金の手続き、付き添いの現実、そして入院した日から始まる「退院後どうするか」の話し合いまでを、順を追って整理します。慌てなくてよいこと、急いだ方がよいことを分けておきます。
最初に病院へ
保険証・お薬手帳
マイナ保険証なら本人のカード
先に出すと安い
限度額適用認定証
窓口負担が上限までに
相談相手
医療ソーシャルワーカー
病院内・相談無料
早めに考える
退院後の行き先
入院当日から検討が始まる
入院当日から数日でやること
| 病院に持って行く | 健康保険証(またはマイナンバーカード)、お薬手帳、介護保険証、診察券、印鑑、現金かカード、着替えとタオル、コップ・箸、上履き。お薬手帳は診療の質に直結するので最優先 |
|---|---|
| 入院申込書・誓約書 | 身元保証人・連帯保証人の欄がある。署名の意味(支払いの連帯責任)を確認してから書く。保証人が立てられない事情は正直に相談窓口へ |
| 連絡先の一本化 | 病院からの連絡先を1人に決める。きょうだいで別々に電話すると医師の負担になり、情報も食い違う |
| 親の情報を病院に伝える | 持病・アレルギー・かかりつけ医・普段の生活(歩けるか、認知症の有無、耳の聞こえ)。普段の状態を知っているのは家族だけ |
| 本人の意思の確認 | 意識があるうちに、延命についての希望を聞ける機会があれば聞いておく(事前指示)。書面がないか、財布や引き出しも確認 |
| 職場への連絡 | 自分の休みの見通し。介護休暇は年5日(対象家族2人以上なら10日)、時間単位でも取得可能 |
お金の手続き — 先に出すほど安くなる
- 高額療養費制度 — ひと月の医療費の自己負担に上限がある。70歳以上・一般所得なら外来+入院で月57,600円、住民税非課税ならさらに低い。あとから申請しても戻るが、いったん立て替えが必要
- 限度額適用認定証 — 加入している健康保険(後期高齢者医療なら市区町村、国保も市区町村、健保組合なら組合)に申請すると、窓口の支払いが最初から上限まで。マイナ保険証を使う場合はオンライン資格確認で自動適用され、認定証は不要
- 多数回該当 — 直近12か月で3回上限に達すると、4回目から上限額がさらに下がる
- 対象外のもの — 差額ベッド代、食事代、入院時の日用品、先進医療は高額療養費の対象外。ここが月の出費を押し上げる
- 食事代 — 1食あたり510円(一般所得の標準負担額。住民税非課税世帯は減額あり、申請が必要)
- 医療費控除 — 年間10万円(または所得の5%)を超えた分は確定申告で控除。領収書は捨てずに保管。通院の交通費も対象
補足
差額ベッド代(特別療養環境室料)は、次の場合は支払う必要がありません。①同意書に署名していない、②治療上の必要で個室になった(感染症の隔離、免疫低下、症状が重く安静が必要)、③病棟が満床でやむを得ず個室になった。厚生労働省の通知で明示されています。「個室しか空いていません」と言われて同意書を出されたら、「治療上の必要ですか、それとも部屋の都合ですか」と一度確認を。都合による場合は請求できない、という理解で構いません。
付き添いはどこまで必要か
多くの病院は「付き添いは不要」を原則にしています(看護は病院の責任で行う体制)。それでも家族が呼ばれる場面はあります。
| 必要になりやすい | 医師の説明(インフォームド・コンセント)、手術の同意、認知症でせん妄が出ているときの短時間の付き添い、退院時の説明と荷物の持ち帰り |
|---|---|
| 頼めることが多い | 洗濯(病院の有料サービス・リース)、日用品(院内の売店やレンタルセット)、おむつ。「洗濯物を取りに毎日通う」は外注できる |
| 面会の制限 | 時間帯・人数・回数の制限がある病院が多い。入院時に確認して、きょうだいで分担 |
| 遠方から支える | 看護師長か担当看護師に「電話で状況を教えてもらえる時間帯」を確認しておく。医師の説明はオンラインや電話で受けられる病院も増えている |
1か月の入院費の目安 70歳以上・一般所得で1か月入院した場合。医療費の自己負担は高額療養費の上限で月57,600円、食事代が1食510円×3食×30日=45,900円、差額ベッド代(個室を選んだ場合、1日5,000円なら)150,000円、日用品・レンタル1万円前後。個室を選ばなければ月11万円ほど、個室なら月26万円ほど。この差が、部屋の選択の重さです。
入院した日から、退院の話が始まる
面食らうのは「まだ治療中なのに退院の話をされる」ことです。急性期の病院は在院日数が短く、入院直後から退院支援が動き出します。冷たいのではなく、そういう仕組みです。
- 医療ソーシャルワーカー(MSW) — 病院の相談室にいる福祉の専門職。費用の相談、施設探し、制度の案内まで無料。「地域連携室」「患者支援センター」という名前のことも。早いうちに一度会っておく
- 退院支援看護師 — 退院後の生活を見据えて、必要な医療処置や在宅サービスを調整する
- 介護保険の申請 — 入院中でも申請できる。認定には1か月ほどかかるため、退院後に介護が必要そうなら入院中に申請を(要介護認定の流れ)
- 退院前カンファレンス — 医師・看護師・MSW・ケアマネジャー・家族が集まって退院後の体制を決める場。家族は必ず参加する
退院後の行き先を決める
| 自宅へ戻る | 訪問看護・訪問診療・デイサービス・福祉用具・住宅改修を組み合わせる。ケアマネジャーが中心になって計画を立てる |
|---|---|
| 回復期リハビリ病棟 | 脳卒中や大腿骨骨折など対象の疾患がある場合、集中的にリハビリして自宅復帰を目指す。入院できる期間に上限(疾患により60〜180日) |
| 地域包括ケア病棟 | 急性期を終えたが自宅にすぐ戻れない場合の受け皿。最長60日 |
| 介護老人保健施設(老健) | リハビリしながら在宅復帰を目指す施設。3〜6か月が目安で、長期の住まいではない |
| 介護施設 | 特養・有料老人ホームなど。見学と費用の確認に時間がかかるため、可能性があるなら入院中に動き出す |
| 療養病床・医療型施設 | 医療的な管理が続けて必要な場合。MSWが候補を挙げてくれる |
仕事と両立するために使える制度
入院が長引くと、困るのは家族側の仕事です。使える制度を知らないまま有給を削り、最後に退職を考えてしまう人がいます。順番はこうです。
- 介護休暇 — 年5日(対象家族が2人以上なら10日)。時間単位で取れるので、面会や医師の説明、役所の手続きに使いやすい。無給の会社が多い
- 介護休業 — 対象家族1人につき通算93日まで、3回に分割可能。自分が介護するためというより、介護の体制を整えるための期間と位置づけられている
- 介護休業給付金 — 雇用保険から賃金の67%が支給される(要件あり)。手続きは勤務先経由
- 短時間勤務・時差出勤・残業免除 — 要介護状態の家族がいる労働者は、事業主に措置が義務づけられている。就業規則を一度読む
- 言い出しにくいとき — 直属の上司より先に人事・総務に制度を確認すると、話が早いことがある
介護離職は、収入が途絶えるだけでなく介護が終わった後の再就職も難しくなります。まず制度を使い切ってから考える、という順番を崩さないでください。
もしものときに備えて聞いておくこと
状態が重いときは、医師から「今後について」の話があります。動揺している場面ですが、確認しておきたいのは次の点です。
- 今の状態と見通し — 「良くなる見込みはどのくらいですか」「何が起きうるか」を、遠慮せず聞く
- 本人の希望 — 延命治療についての意思を書いた紙がないか、以前に本人が話していたことがないか
- 誰が決めるか — 家族の間で方針が割れると、本人にも医療者にも負担がかかる。代表者を決めておく
- お金の所在 — 意思疎通ができるうちに、通帳・印鑑・保険証券のありかを聞いておく(親が元気なうちに確認する30項目)。凍結後は動かせなくなります
- その先の手続き — 万一のときに慌てないよう、亡くなった後の手続きの全体像だけ目を通しておく
チェックリスト
- 保険証・お薬手帳・介護保険証を病院に届けた
- 入院申込書の保証人欄の意味を確認して署名した
- 病院の連絡窓口を家族側で1人に決めた
- 限度額適用認定証を申請した(マイナ保険証利用なら不要)
- 差額ベッド代の同意書は、部屋の必要性を確認してから署名した
- 医療ソーシャルワーカーに一度会って、費用と退院後の相談をした
- 介護が必要になりそうなら、入院中に要介護認定を申請した
- 領収書をまとめて保管している(医療費控除)
- 退院前カンファレンスの日程を押さえた
よくある質問
- 入院費が高額になりそうです。先にできることはありますか
- 加入している健康保険に限度額適用認定証を申請すると、窓口の支払いが高額療養費の上限額までになります。70歳以上の一般所得なら月57,600円が目安です。マイナ保険証を使う場合はオンライン資格確認で自動的に適用されるため、認定証の申請は不要です。
- 差額ベッド代は必ず払うものですか
- 同意書に署名していない場合、治療上の必要で個室になった場合、病棟が満床でやむを得ず個室になった場合は、支払う必要がありません。厚生労働省の通知で示されています。個室を勧められたら、治療上の必要か部屋の都合かを確認してください。
- まだ治療中なのに退院の話をされました
- 急性期の病院は在院日数が短く、入院直後から退院支援が始まる仕組みです。追い出されるということではなく、次の行き先(自宅・回復期リハビリ病棟・老健・施設)を一緒に考える段階です。病院の医療ソーシャルワーカーに相談してください。相談は無料です。
- 遠方に住んでいて毎日は行けません
- 多くの病院は付き添いを原則不要としています。洗濯や日用品は院内のサービスやレンタルで外注でき、状況の連絡も看護師と時間帯を決めておけば電話で受けられます。医師の説明と退院前カンファレンスには予定を合わせて参加してください。
- 入院中に介護保険の申請はできますか
- できます。認定まで1か月ほどかかるため、退院後に介護が必要になりそうなら入院中に市区町村へ申請しておくと、退院と同時にサービスを使い始められます。病院の相談室が手続きを案内してくれます。
あわせて確認 — 退院後に介護が始まるなら介護が始まるとき、施設を検討するなら親の施設選び、離れて暮らしているなら遠距離介護の続け方、事前に確認しておくことは親が元気なうちに確認する30項目へ。本人の意思の書き方は事前指示書に。
※金額は本ページ作成時点の一般的な目安です。制度の詳細は加入している健康保険と病院の相談室でご確認ください。治療や健康に関する判断は主治医にご相談ください。