エンディングノートの書き方 — 途中で止まらない順番と、最初の5項目
エンディングノートを買って、数ページ書いて、引き出しにしまったまま。そういう話をよく聞きます。止まる理由ははっきりしていて、項目が多すぎて「事務作業」になるからです。財産目録から始めるノートは続きません。このページでは、最初に書く5項目、止まらない順番、遺言との違い、保管と伝え方を整理します。書き終えることより、家族が困らない最低限を先に埋めることが目的です。
止まらない順番 — 「家族が困る順」に書く
市販のノートはたいてい「自分史→家族→財産→医療→葬儀→メッセージ」の順に並んでいます。最初の自分史で筆が止まるか、財産目録で面倒になるかのどちらかです。順番を変えます。自分が書きたい順ではなく、家族が困る順。入院のとき、亡くなった直後、その後の手続き。この順で、各段階の「これだけあれば動ける」を先に埋めます。
| 1. 所在 | 保険証・通帳・印鑑・保険証券・年金証書・権利証の「置き場所」。口座は銀行名と支店名(残高は不要)。保険は会社名と種類。スマートフォンとパソコンのロック解除方法は「どこに書いてあるか」まで |
|---|---|
| 2. 連絡先 | もしものとき知らせてほしい人の名前・関係・連絡先。「知らせなくてよい人」も書いておくと家族が迷わない。かかりつけ医・ケアマネジャー・菩提寺・管理会社 |
| 3. 医療・介護の希望 | 介護は自宅か施設か。延命治療についての考え。最期を迎えたい場所。臓器提供・献体の意思。※治療の判断は医師と。ここは「自分の考えを家族が知る」ためのもの |
| 4. 葬儀・お墓の希望 | 規模(家族葬・一般葬・直葬)、宗派、呼んでほしい人、遺影に使ってほしい写真、納骨先、お墓を継ぐ人、費用の目安と出どころ |
| 5. ありがとうを伝えたい人 | お世話になった人、謝りたい人、伝えそびれていること。ここがいちばん書きたくなる項目で、書くと他の項目が進む |
この5項目で見開き2〜3ページ分。ここまで埋まっていれば、家族は動けます。財産目録・自分史・ペット・デジタル遺品・相続の希望は、その後の「余力があれば」の章です。
遺言との違い — 効力の線引き
| エンディングノート | 遺言 | |
| 法的効力 | なし。希望・情報の伝達 | あり。財産の分け方・認知・遺言執行者の指定など |
| 書き方 | 自由。鉛筆でも、途中でも、書き直しも自由 | 自筆証書は全文自筆・日付・署名・押印が要件(財産目録はパソコン可)。公正証書は公証人が作成 |
| 費用 | 0円〜1,000円台(市販ノート) | 自筆証書は0円(法務局の保管制度は1件3,900円)、公正証書は財産額に応じて数万円〜 |
| 向いていること | 所在・連絡先・医療介護の希望・葬儀の希望・メッセージ | 「誰に何を残すか」。不動産がある、再婚している、相続人以外に残したい、子の一人に多く残したい |
「ノートに財産の分け方を書いておけば安心」は、いちばん多い誤解です(遺言の方式と費用は遺言の基本)。ノートの「長男に家を」は法的には希望にすぎず、相続人全員の合意がなければそのとおりになりません。分け方を決めたいなら遺言。ノートは遺言に書けないこと(希望・想い・情報)を担う、と分けて考えます。両方そろえて一つの備えです。
無料で始める方法
- 自治体の配布 — 多くの市区町村が無料のエンディングノートを配布している(窓口・地域包括支援センター・公式サイトのPDF)。「自治体名+エンディングノート」で検索。自治体の手続き案内が載っていて実用的
- ノート1冊と、この5項目 — 市販の専用ノートでなくても、大学ノートに見出しを5つ書けば始められる。続いたら専用ノートに清書する
- 法務局・公証役場の相談 — 遺言が必要そうなら、法務局の自筆証書遺言保管制度の案内や、公証役場の無料相談へ。ノートで整理した内容がそのまま相談の材料になる
- スマートフォンのメモ — 所在リストだけならメモアプリでも。ただし家族がロックを解除できる手段(誰がパスワードを知っているか)をセットで
5項目の書き方 — 実際の記入例
| 所在の書き方 | 「〇〇銀行 △△支店 普通」「△△生命 終身保険(証券は寝室のタンス上段)」「年金証書は仏壇の引き出し」のように、名称と場所だけ。金額・口座番号・暗証番号は書かない |
|---|---|
| 連絡先の書き方 | 名前・関係・電話番号・「知らせるタイミング(入院時/亡くなったら/葬儀後でよい)」の4列。知らせなくてよい人は名前だけ別枠に |
| 医療・介護の書き方 | 「介護が必要になったら、できれば自宅。無理なら〇〇市内の施設」「延命治療は望まない(詳しくは主治医と家族で相談してほしい)」のように、考えの方向と、判断を委ねる相手を書く |
| 葬儀の書き方 | 「家族葬で10人程度」「宗派は〇〇、菩提寺は△△寺(電話番号)」「遺影は2023年の旅行の写真(スマホのアルバム『家族』)」「費用は□□銀行の口座から」 |
| ありがとうの書き方 | 相手の名前と、一言。「〇〇さんへ、就職のとき背中を押してくれてありがとう」。手紙にする必要はなく、1行で足りる。書いているうちに、生きているうちに伝えたくなる人が出てくる |
見本どおりに書く必要はありません。大切なのは家族がそれを読んで次の行動に移れるか。「銀行に口座がある」では動けず、「〇〇銀行△△支店」なら動けます。
保管場所と、伝え方
書いても、家族が存在を知らなければ意味がありません。保管の要点は3つです。
- 場所を1か所に決め、家族の1人以上に伝える — 仏壇の引き出し、書斎の決まった棚、通帳と同じ場所。「ここにある」を口頭で伝え、できれば一度一緒に見る
- 暗証番号・パスワードは本体に書かない — ノートには「銀行の暗証番号は〇〇に」と所在だけ。番号そのものは別の封筒や、信頼できる1人に
- 貸金庫に入れない — 亡くなった後、貸金庫は相続人全員の同意がないと開けられないことが多い。ノートは「すぐ見られる場所」が原則
書き進めるコツ
- 1回15分、1項目だけ — 一気に書こうとしない。所在の項目なら、今日は銀行だけ、来週は保険だけ
- 事実から、希望へ — 所在・連絡先(事実)を先に埋めると、医療・葬儀(希望)に進みやすい。逆順は止まる
- 親と一緒に書く — 親の分を確認リストで聞きながら、自分の分も並行して書く。子どもが先に自分の分を見せると、親も書きやすい
- 「ありがとう」の章を最初に開く日があっていい — 事務が面倒な日は、伝えたい人の名前を1人書くだけで終える。続ける燃料はここにある
- 書いたら誰かに「書いた」と言う — 内容を見せなくていい。存在と場所を伝えることが、ノートの仕事の半分
チェックリスト — 5項目が「機能する」状態
- 口座(銀行名・支店)と保険(会社名・種類)の一覧を書き、書類の置き場所を記した
- 連絡してほしい人のリストを、知らせるタイミング付きで書いた
- かかりつけ医・ケアマネジャー・菩提寺の連絡先を書いた
- 介護・延命・最期の場所について、考えの方向と判断を委ねる相手を書いた
- 葬儀の規模・宗派・遺影・納骨先・費用の出どころを書いた
- ありがとうを伝えたい人を1人以上書いた
- ノートの場所を家族の1人以上に伝えた(暗証番号は別保管)
- 年1回の更新日(誕生日か年末)を決めた
誤解されやすいこと
「エンディングノートは高齢になってから」— 所在リストは誰にでも要る
口座・保険・連絡先の所在は、年齢に関係なく、もしものときに家族が探すものです。40代・50代で書く人が増えているのは、親の手続きで「わからない」を経験したからです。5項目のうち所在と連絡先は、今日書ける事実だけで埋まります。
「書いたら死を受け入れたことになる」— 後半戦の作戦会議
実際に書いた人がよく口にするのは「身軽になった」です。やり残していること、会いたい人、伝えたいことが見えて、残りの時間の使い方が変わる。ノートは終わり支度ではなく、これからの時間を思いどおりに使うための整理です。
よくある質問
- エンディングノートに法的効力はありますか
- ありません。財産の分け方など法的に決めたいことは遺言で行います。ノートは所在・連絡先・医療介護や葬儀の希望・メッセージなど、遺言に書けないことを担います。両方そろえて一つの備えです。
- 何から書けばよいですか
- 保険証・通帳・保険証券などの置き場所と、口座の銀行名・保険会社名(金額は不要)。次にもしものとき連絡してほしい人。この2つが埋まれば家族は動けます。その後に医療介護の希望、葬儀の希望、伝えたい人の順です。
- 無料で手に入りますか
- 多くの市区町村が無料のエンディングノートを窓口やサイトのPDFで配布しています。市販ノートでなくても、大学ノートに5つの見出しを書けば始められます。
- どこに保管すればよいですか
- 家族がすぐ見つけられる場所に1か所と決め、家族の1人以上に場所を伝えます。暗証番号やパスワードは本体に書かず所在だけを記し、貸金庫には入れないのが原則です。
- 書けない項目があります
- 空欄のままでかまいません。「まだ決めていない」という情報として家族の判断材料になります。所在と連絡先が埋まっていれば、ノートとしての役割は果たしています。
あわせて確認 — ノートに書いた内容が亡くなった後にどう使われるかは期限順ガイドで。親の分を聞きながら書くなら親が元気なうちに確認しておくこと、頼れる家族が近くにいない場合は死後事務委任契約とおひとりさまの備えへ。終活全体の考え方は自分の終活を始めるに。
※医療・介護の希望は本人の考えを家族が知るためのもので、治療の判断は医師にご相談ください。本ページは一般的な説明です。