Lifeナビ 人生後半を、感謝で満たす。
ホーム亡くなった後の手続き › 遺言執行者の実務

遺言執行者の実務 — 指定されたら、何をするのか

遺言は、書いてあるだけでは実現しません。銀行に行き、法務局に申請し、財産を受取人に渡す誰かが必要です。その役が遺言執行者。遺言で指定されているのが一般的で、突然「あなたが執行者です」と知らされることもあります。このページでは、就任後にやること、単独でできる範囲、報酬、辞退したいときの選択肢を、実務の順に整理します。

最初の義務
相続人への通知
就任後、遅滞なく
財産目録
作成して交付
相続人全員へ
権限
単独で手続き可
相続人の実印は原則不要
いないとき
選任申立て 800円
家庭裁判所へ

遺言執行者は何をする人か

民法上、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされています。2019年の改正で、その行為は相続人に対して直接効力を生じることが明確になりました。つまり、相続人1人1人の同意や実印を集めなくても、執行者の名前で手続きが進みます。

執行者が必要な行為認知(遺言で子を認知する)、相続人の廃除・取消し。この2つは執行者でなければできない
執行者がいると楽な行為預貯金の解約・払戻し、不動産の登記、株式の名義変更、貸金庫の開扉、受遺者への引渡し
執行者がいなくてもできる行為「相続させる」と書かれた財産を相続人が単独で登記する、など。ただし第三者への遺贈は執行者がいないと相続人全員の協力が必要になる

就任後にやること — 10ステップ

1. 就任の承諾指定されても就任は義務ではない。承諾するか辞退するかを決める。相続人から「就任するか確答してほしい」と催告され、期間内に返事をしないと承諾したものとみなされる
2. 遺言の検認自筆証書遺言(法務局保管を除く)は、開封前に家庭裁判所の検認が必要。1〜2か月
3. 相続人への通知就任したことを遅滞なく相続人全員に通知する(2019年改正で明文化)。遺言の内容も知らせる。この通知を怠ると、後々の不信の種になる
4. 相続人の確定亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集める。受遺者が相続人以外なら、その人の確認も
5. 財産目録の作成相続財産を調査し、目録を作って相続人全員に交付する(義務)。預金は残高証明、不動産は登記事項証明書と評価証明書
6. 財産の管理執行が終わるまで財産を管理する。他人の財産を預かる立場なので、自分の財産と分けて管理し、記録を残す
7. 名義変更・換価預貯金の解約、不動産の登記、証券の移管。遺言に「換価して分配する」とあれば売却も行う(清算型遺贈)
8. 債務・税金の精算未払いの医療費・税金などを支払う(遺言に定めがある場合)
9. 分配・引渡し遺言のとおりに相続人・受遺者へ引き渡す。受領書をもらう
10. 完了報告執行の経過と結果を相続人へ報告する(義務)。収支の明細と証憑を添える

全体の期間は、財産の内容にもよりますが3か月〜1年が目安です。相続税の申告(10か月)がある場合は、それに間に合うペースで進める必要があります。

単独でできること・できないこと

できる預貯金の解約と払戻し(遺言と就任を証する書面を金融機関に提出)、不動産の登記申請、株式の移管、賃貸物件の明渡し交渉、遺言に基づく売却
できない遺言に書かれていない財産の処分、遺言の内容を変えること、遺産分割協議への参加(執行者の役割ではない)
相続人の行為の制限執行者がいる間、相続人は相続財産を勝手に処分できない。処分しても無効(善意の第三者には対抗できない)
第三者への委託2019年改正で、やむを得ない事由がなくても第三者に任せられるようになった。実務では司法書士・弁護士に一部を委託することが多い
補足
執行者に指定された人がまず戸惑うのは、「相続人の1人でもあり、執行者でもある」という二重の立場です。長男が執行者に指定され、自分の取り分も決めなければならない。このとき効くのが通知と目録と報告の3つで、法律上の義務であると同時に、他の相続人の不信を防ぐ最良の道具でもあります。手間でも省かないでください。

報酬

遺言に定めがあるその額(財産額の1〜3%、または定額)。遺言を書く段階で決めておくのが最善
定めがない家庭裁判所に報酬付与の申立てをして決めてもらう(収入印紙800円)。相続財産の状況や執行の手間を考慮して決定
親族が執行者の場合無報酬とすることも多い。ただし実費(交通費・戸籍代・郵送料)は相続財産から支出してよい
専門家の相場司法書士・弁護士で財産額の1〜3%程度、最低額を30万〜50万円とする事務所が多い。信託銀行は最低100万円〜
費用の負担報酬・実費とも相続財産から支出する。相続人が自腹を切るものではない

金融機関・法務局での実務

銀行に提出するもの遺言書(公正証書の正本・謄本、または検認済証明書付きの自筆証書)、亡くなった方の死亡がわかる戸籍、執行者の印鑑証明書と本人確認書類、金融機関所定の依頼書。相続人全員の印鑑証明書は原則不要
登記に提出するもの遺言書、亡くなった方の死亡の記載がある戸籍と住民票除票、受遺者の住民票、固定資産評価証明書、登記申請書。「相続させる」なら相続人が単独申請、「遺贈する」なら執行者と受遺者の共同申請
証券会社受遺者名義の口座開設が前提(株式の相続)。執行者が移管手続きを行う
清算型遺贈のとき「不動産を売却して代金を分配する」という遺言。執行者がいったん相続人名義に登記してから売却する流れになり、譲渡所得税の申告が必要になる場合がある。税理士と連携を
断られたら金融機関によっては相続人の同意書を求められることがある。改正民法の趣旨(執行者単独で可)を説明しても難しければ、司法書士・弁護士から連絡してもらうと通ることが多い

就任したくないとき

遺言執行者が指定されていない場合

遺言はあるのに執行者の指定がない、あるいは指定された人が亡くなっている・辞退した場合、家庭裁判所に選任を申し立てられます。

申立人相続人、受遺者、債権者などの利害関係人
申立先亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所
費用収入印紙800円+郵便切手
必要書類申立書、遺言書の写し(検認済みのもの)、亡くなった方の死亡がわかる戸籍、申立人と候補者の資料
期間1〜2か月
必要になる場面相続人以外への遺贈がある、遺言による認知がある、相続人が非協力的で手続きが進まない、といったケース

誤解されやすいこと

「執行者は遺言の内容を調整できる」— できない

執行者は遺言を実現する役で、内容を変える権限はありません。相続人全員が合意すれば遺言と異なる分け方をすることも可能とされますが、その場合執行者の同意が必要と解されており、単独で決められるものではありません。

「遺留分を請求されたら執行者が対応する」— 当事者間の問題

遺留分侵害額請求は、請求する相続人と、請求される受遺者・相続人の間の問題です。執行者が代わりに支払う立場ではありません。ただし請求があったことは相続人に伝え、執行に影響する場合は弁護士に相談します。

チェックリスト

よくある質問

遺言執行者に指定されました。断れますか
就任前なら断れます。相続人に就任しない旨を伝えれば足り、書面で残すのが望ましいです。就任した後に辞任するには、正当な事由を示して家庭裁判所の許可(収入印紙800円)が必要です。
遺言執行者は相続人の同意なしに手続きできますか
できます。2019年の民法改正で、執行者の行為は相続人に直接効力を生じることが明確になりました。預貯金の解約や不動産の登記を、相続人の実印を集めずに執行者の名前で進められます。
就任したら最初に何をしますか
相続人全員へ、就任したことと遺言の内容を遅滞なく通知します(法律上の義務)。その後、相続人を戸籍で確定し、財産を調査して財産目録を作成し、相続人全員に交付します。
遺言執行者の報酬はいくらですか
遺言に定めがあればその額(財産額の1〜3%または定額)、なければ家庭裁判所に報酬付与を申し立てて決めてもらいます。専門家に依頼する場合は財産額の1〜3%程度で最低30万〜50万円とする事務所が多く、報酬・実費とも相続財産から支出します。
遺言に執行者の指定がありません
利害関係人(相続人・受遺者・債権者)が家庭裁判所に選任を申し立てられます。収入印紙800円と郵便切手で、選任まで1〜2か月です。相続人以外への遺贈や遺言による認知がある場合は、執行者がいないと手続きが進まないため申立てが必要になります。

あわせて確認 — 遺言そのものの方式と検認は遺言の基本、執行で行う手続きは銀行口座相続登記株式の移管、相続人がいない場合の執行はおひとりさまの相続、専門家に頼む判断は相談先の選び方へ。

※本ページは制度の一般的な説明です。個別の執行の判断は司法書士・弁護士にご相談ください。