親の介護が始まるとき|最初の窓口、申請の流れ、お金の目安
親の入院・退院、転倒、物忘れ。「そろそろ介護かもしれない」と感じたとき、何から手をつければよいか。答えは一つで、親の住所地の地域包括支援センターに電話することです。介護保険の申請、ケアマネジャーの紹介、使えるサービスの整理は、すべてそこから始まります。治療や健康状態の判断はかかりつけ医に。ここで扱うのは制度と段取りです。
最初の1週間でやること
- 1. 地域包括支援センターに電話
「親の介護について相談したい」で通じる。親の住所地の担当センターは、市区町村のサイトか役所の高齢福祉課で確認。子どもが遠方でも電話で相談できる - 2. 親の状況を1枚にまとめる
年齢、病名と通院先、飲んでいる薬、できること・できなくなったこと(食事・入浴・排泄・移動・買い物・金銭管理)、同居の有無、困っている場面。センターと医師に同じ紙を見せる - 3. 介護保険の申請
市区町村の介護保険課(地域包括支援センターが代行可)。必要なのは申請書、介護保険被保険者証(65歳以上の人に交付済み)、マイナンバーと本人確認書類、主治医の氏名。入院中でも申請できる。退院が見えたら病院の相談員に「介護保険の申請をしたい」と伝える - 4. 主治医に意見書の依頼を伝える
申請後、役所から主治医に意見書の作成依頼が届く。かかりつけ医がいなければ、センターに相談して受診先を決める
申請から利用までの流れ
| 申請 | 市区町村の窓口(郵送・代行可)。申請日から介護保険は使い始められる(暫定利用) |
|---|---|
| 認定調査(1〜2週間後) | 調査員が自宅や病院を訪問し、74項目を聞き取り・確認。所要1時間前後。家族が同席し、普段の様子を補足するのが重要(本人は「できる」と答えがち) |
| 主治医意見書 | 役所が主治医に依頼。家族の手続きは不要 |
| 審査・判定 | コンピュータ判定+介護認定審査会。申請から原則30日以内に結果通知(遅れる自治体もある) |
| 結果 | 非該当/要支援1・2/要介護1〜5 の8段階。要支援は地域包括支援センター、要介護はケアマネジャー(居宅介護支援事業所)がケアプランを作る |
| 利用開始 | ケアプランに沿って事業者と契約。認定は原則6か月〜(更新は12か月〜最長48か月)ごとに更新。状態が変われば区分変更の申請 |
自己負担と費用の目安
介護保険のサービスは、かかった費用の1割(一定以上の所得で2割、現役並みで3割)を負担します。要介護度ごとに月の「支給限度額」があり、その範囲内なら負担は1〜3割、超えた分は全額自己負担です。
施設入所(特別養護老人ホーム・老人保健施設)は、介護費の1〜3割に加えて居住費・食費が別で、月10万〜15万円前後が目安(所得が低い場合は負担限度額認定で軽減)。民間の有料老人ホームは入居一時金と月額20万〜30万円台以上と幅が大きく、別の検討になります。限度額や負担区分は年度で変わるため、具体額は市区町村の最新の案内で確認を。
要介護度で決まる「使える上限」|支給限度額の表
介護保険には、要介護度ごとに1か月に保険で使えるサービスの上限額が決まっています。この範囲内なら自己負担は1〜3割で済み、超えた分は全額自己負担です。要介護度が「軽い・重い」の意味は、実務上はこの上限額の違いです(2026年度時点・全国共通)。
| 要支援1 | 50,320円/月 |
|---|---|
| 要支援2 | 105,310円/月 |
| 要介護1 | 167,650円/月 |
| 要介護2 | 197,050円/月 |
| 要介護3 | 270,480円/月 |
| 要介護4 | 309,380円/月 |
| 要介護5 | 362,170円/月 |
自己負担が1割か2割か3割かを決めるのは、本人の所得です。目安は単身で合計所得160万円以上(年金収入なら280万円以上)が2割、220万円以上(同340万円以上)が3割で、毎年7月に届く介護保険負担割合証に書かれています。ケアマネジャーとの最初の面談で、この証を見せるところから始まります。
月の自己負担が一定額を超えると、超えた分が高額介護サービス費として戻ります。一般的な所得の世帯で月44,400円が上限。要介護5で上限いっぱい使い、1割負担でも3万6,000円台なので届きませんが、2割・3割負担なら上限を超えることが普通に起きます。初回だけ市区町村へ申請すれば、2回目以降は自動で振り込まれます。
状態が悪くなったのに要介護度が変わっていないときは、認定の有効期間を待たずに区分変更申請ができます。ケアマネジャーに相談すれば申請書を用意してくれ、1か月ほどで再認定されます。逆に「上限を余らせている」なら、無理に使い切る必要はありません。使った分だけの負担です。
ケアマネジャーの決め方
- 要介護1以上なら、居宅介護支援事業所を選んでケアマネジャーを決める。地域包括支援センターが事業所の一覧を持っているので、2〜3か所の名前を聞く
- 選ぶ軸は、①親の家に近い(急な訪問ができる)、②連絡が取りやすい(電話の折り返しが早い)、③家族の事情(遠距離・仕事)を踏まえた提案をしてくれるか
- ケアマネジャーの費用は全額介護保険負担で自己負担ゼロ。合わなければ変更できる(事業所を変えてよい)
- 最初の面談では、親のできること・できないこと、本人の希望、家族が手伝える範囲、予算を伝える。1枚にまとめた紙がここで役に立つ
使えるサービスの種類
| 自宅で | 訪問介護(ヘルパー)、訪問看護、訪問入浴、訪問リハビリ、夜間対応、定期巡回 |
|---|---|
| 通う | デイサービス(通所介護)、デイケア(通所リハビリ)。入浴・食事・機能訓練。家族の休息にもなる |
| 泊まる | ショートステイ(短期入所)。家族の出張・冠婚葬祭・休養のとき |
| 環境を整える | 福祉用具のレンタル(ベッド・車いす・手すり)、購入(年10万円まで1〜3割負担)、住宅改修(上限20万円・1〜3割負担。手すり・段差解消) |
| 住まいを変える | 特別養護老人ホーム(原則要介護3以上)、老人保健施設、グループホーム(認知症)、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(種類と費用の比較) |
遠距離介護の段取り
- 帰省のたびに3つ
地域包括支援センター(またはケアマネジャー)と顔を合わせる、かかりつけ医の受診に同行する、近所・親戚に連絡先を渡す - 連絡網を作る
ケアマネジャー・ヘルパー事業所・民生委員・近所の人・親戚。緊急時に誰から連絡が来るかを決める - 見守りの道具
自治体の緊急通報システム・見守りサービス、電気ポットや電球の見守り、民間の駆けつけサービス。配食サービスは安否確認にもなる - 交通費の工夫
航空会社の介護帰省割引(JAL)、鉄道のネット早期割引、自治体の助成(一部)を確認 - 介護休業・休暇
介護休業(対象家族1人につき通算93日、3回まで分割可。雇用保険から介護休業給付金=賃金の67%)、介護休暇(年5日、2人以上で10日、時間単位可)、残業免除・短時間勤務。申請の段階から使える
親と話すときに
「介護保険の申請をしよう」と切り出すと、「まだそんな年じゃない」と返ってくることがほとんどです。切り口を変えましょう。「手すりを付けるのに補助が出るらしいから、申請だけしておこう」「お風呂が大変なら、週1回でも誰かに来てもらえる」と、制度の話ではなく、困っている場面の話にする。地域包括支援センターの職員に親と直接話してもらうのも、第三者の言葉が入るぶん通りやすい方法です。親の希望(自宅で暮らしたい、施設は嫌だ)は、元気なうちに聞いておく30項目の中でも、この段階で最も役に立ちます。
誤解されやすいこと
「介護保険は寝たきりになってから」|要支援から使える
要支援1・2でも、介護予防のデイサービスや訪問型サービス、住宅改修、福祉用具が使えます。「まだ歩ける」段階での手すりと運動で要介護への進行を遅らせることを目的に、制度が設計されています。
「施設に入れるのは親不孝」|選択肢の一つ
在宅で無理を重ねて家族が倒れると、結局は施設になります。在宅か施設かは、親の状態・家族の体力・費用で決める実務の選択で、どちらが正しいという話ではありません。ケアマネジャーは両方の選択肢を前提に計画を立てます。
チェックリスト|最初の1か月
- 親の住所地の地域包括支援センターに電話し、相談した
- 親の状況(病名・薬・できること・困りごと)を1枚にまとめた
- 介護保険を申請した(入院中なら病院の相談員経由でも)
- 認定調査に家族が同席し、普段の様子を補足した
- 要介護ならケアマネジャーを決め、初回面談で希望と予算を伝えた
- 自己負担の月額目安と、高額介護サービス費の上限を確認した
- 遠距離なら連絡網と見守りの道具を整えた
- 勤務先に介護休業・休暇の制度を確認した
よくある質問
- 介護が必要になったら、最初にどこへ相談しますか
- 親の住所地の地域包括支援センターです。市区町村が設置する無料の相談窓口で、介護保険の申請代行、ケアマネジャーの紹介、使えるサービスの整理をしてくれます。子どもが遠方でも電話で相談できます。
- 介護保険の申請から利用まで、どのくらいかかりますか
- 申請から認定結果まで原則30日以内です。認定調査と主治医意見書をもとに審査されます。申請日にさかのぼってサービスを使い始められるので、結果を待たずにケアマネジャーと暫定のプランを組むことができます。
- 自己負担はどのくらいですか
- かかった費用の1割(所得により2〜3割)です。要介護度ごとの支給限度額内で、要介護1なら限度額まで使っても月約1万7,000円、要介護5で約3万6,000円が目安(1割負担)。高額になった場合は高額介護サービス費で上限を超えた分が戻ります。
- ケアマネジャーは自分で選べますか
- 選べます。地域包括支援センターから居宅介護支援事業所の一覧をもらい、親の家に近く連絡が取りやすいところを。費用は全額介護保険負担で自己負担はなく、合わなければ変更も可能です。
- 仕事を休む制度はありますか
- 介護休業(対象家族1人につき通算93日・3回まで分割、雇用保険から賃金の67%の給付金)、介護休暇(年5日、対象家族2人以上で10日)、残業免除や短時間勤務があります。介護保険の申請や施設探しの段階から使えます。
あわせて確認
親の希望と情報を先に聞いておくための確認リスト30項目、介護費用の支払いと口座の備えは銀行口座のガイド、身元保証や死後の備えが必要ならおひとりさまの備えへ。入院がきっかけで介護が始まることも多く、その場合は親が入院したときから読みましょう。親のこれから全体は親のこれからに備えるに。
出典
この記事の制度の説明は、次の法令・公的資料にもとづいています(2026年10月確認)。個別のご判断は、司法書士・税理士などの専門家や各窓口にご確認ください。
- 厚生労働省『介護保険制度の概要』
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム『サービス利用までの流れ』
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム『サービスにかかる利用料』
- 厚生労働省『育児・介護休業法について』
- 厚生労働省 ハローワークインターネットサービス『雇用継続給付』(介護休業給付)
※限度額・負担割合・制度は年度や自治体で変わります。本ページは制度と段取りの一般的な説明で、治療や健康状態の判断は医師にご相談ください。