「売れると思っていたが、予想通り売れない」
「良い商品だと分かっているが、売れない」
マーケティングを進めるなかで、このような壁にぶつかることがある。
原因は何なのか?
考えられることは2つある。
1つめは「マーケティング戦略の中で、どこかに抜けがある」
2つめは「計画もよい、商品も良いが、実践力・実行力が足りない」
1.マーケティング戦略の中で、どこかに抜けがある
何をどう売っていくか、という計画の段階では、計画を立てるための様々なノウハウ・お手本がある。
例えば、有名なところではフィリップコトラーが提唱するマーケティング・マネジメントだ。
「R-STP-MM-I-C」で表される体系で、全体像は以下の図のとおりである。
一番上にある「市場調査」から、「マーケティング・ミックス」といわれる商品、販促、流通、価格までが、「計画」だ。
誰がターゲットで、自社の売りの部分はここで、価格はこのくらいで、こういう広告戦略をしていく・・・と計画を立てる。
自分で「これは良い商品だ」「これは売れるはずだ」という思惑をしているなら、計画段階で「イケそうな計画」になっているはずだ。
しかし、このような「基本体系」を押さえずに、なんとなく計画していたなら、どこかに抜け・漏れ・弱点がある。
例えば、ターゲティングが甘かったり、他社と比べて一番になれるポイントや差別化のポイントについて訴求できていなかったり(ポジショニングが甘い)、価格が高すぎる、安すぎる、などだ。
勘やヒラメキで「これはイケる」と思って世に出しているなら、一度このような体系を学び、体系に照らし合わせて「ここが問題かも。ここが売れない原因かも」と仮説を立てて、改善していくことが重要になる。
→【参考記事】コトラーのマーケティング・マネジメント体系「R-STP-MM-I-C」を要約してみる
2.計画もよい、商品も良いが、実践力・実行力が足りない
マーケティングの本を読んで勉強し、市長調査もしっかりし、自社のPRすべきポイントも明確になり、価格も練り、販売促進もやっている。
なのに売れない。
という場合は、「計画はよいが、実践のところに課題がある」かもしれない。
計画通り物事が進まない、というのは世の常で、誰もが経験のあることだ。
富士山のご来光を拝むために登山計画を立てたとしても、登ったことがない人が立てる計画と、富士山のガイドをする人の計画は異なる。
前者は現場のノウハウ、実践と経験が足りないので、「雨が降った時にどうやって効率的に登るか」「人がたくさんいる時期ならどのルートがよいか」「どこで、どのタイミングで休憩すれば体力を消耗せずに登れるか」などが分からないのだ。
ある程度は事前に調べておくことができるが、経験値がモノを言うのは間違いない。いくら調べても分からないことはある。
自分の脚力が何合目でどうなるか、など「やってみないと分からない」ことは確実に存在するからだ。
マーケティングも同じで、「ありとあらゆる商品・サービスを手掛け、実際に販売に成功した経験がある人」と「起業したて」あるいは「はじめて新規事業を任されて販売責任を負う人」では経験値が違う。
計画段階では似たような戦略を立てていても、経験者は「使う戦術、実際に試さなければならない現場でのノウハウ」が織り込まれているのに対し、経験の浅い人はそれらが薄い。
それが「いざ実践したとき」の大きな差になる。
マーケティングにおける経験値とは、計画を立てる経験値ではなく、コトラーの体系でいうところの「I:実行(Implementation)」の経験のことである。
この「実行」は、軽視される傾向があり「きちんと計画を立てたら、うまくいくだろう」と思われがちだ。
しかし実際には実行するときのノウハウ、経験値や、どんな戦術を駆使できるか、などがマーケティングの成否を大きく左右する。
この記事では、ヒントのなる事例を挙げてよう。
販促で「広告を出せば反応がある」と思ってしまう
計画を立てました。そして広告を出しました。
売れませんでした。
というとき、広告に対するノウハウや経験がないと「ダメだった」という結論で終わってしまうことがある。
プロの代理店に頼んで、よいデザインになった広告なのに売れない、ダメだった・・・とう場合でも、経験値のある人は「じゃ、内容やヘッドラインを変えてみよう」となる。ない人は商品自体の魅力や計画自体を疑ってしまう。
様々な広告を出してきた人は、「ヘッドラインを変えるだけで5~10倍反応が変わることもある」と知っているので、広告AがダメならB、でもってCも試す、ということが計画に織り込まれているのだ。
見せ方を変えるだけで売れる可能性があることを知らない
テレビ通販で誰もが知るジャパネットたかた。
私もCMを良く見るのだが、ちょっちゅう「電子辞書」を売っている。
電子辞書なんてそんな売れんの?と思って見ていたが、実は累計で150万台以上も販売しているらしい。
電子辞書をPRする中で、電子辞書に収録されている辞書の冊数の多さを視聴者に実感してもらうために、現物の辞書をずらっと見せて効果をあげているのだが、従来は辞書を机の上に立てて横に並べていたらしい。
しかし、平積みにして縦に積み上げるように変えてみたところ、売上が2倍以上になったそうだ。
積み上げたほうが「これだけの量が入ってんのか」という実感が湧きやすいのだろう。それにしても2倍も変わるというのは大ごとだ。
マーケティングの「計画」をどれだけ見直しても、2倍になるということは考え難い。
消費者に近い「実践の場」での工夫やノウハウによって大きな違いが生まれる、という好例だといえる。
また、定番の「ビデオカメラ」の販売時には、社員6人が自分たちの子どもを撮ったビデオを流してみたところ、注文が通常の2.5倍になったらしい。
手のひらサイズのカーナビでも、当初は机の上に置いて紹介していたのを「ポケットから取り出す演出から紹介を始める」スタイルにに変えてみたところ、売上が5倍に跳ね上がったそうだ。
これらは高田社長の著書「伝えることから始めよう」に掲載されている実例だ。
また、民泊施設の紹介サービスであるエアビーアンドビーでは、当初、サイトで紹介する宿泊物件の写真を、すべて物件の提供者にまかせていた。
しかしあるとき、創業者みずから物件を訪問してみると、実際はきれいな部屋なのに、写真では暗くて薄汚く見えていたという。
そこで、試しにプロカメラマンが撮影した物件の写真を出してみたところ、それだけで普通の物件の2倍から3倍の予約が入った。
それ以降、プロの写真サービスを提供することで成長を加速させたのである。
このように「顧客の目に触れる」という重要なタイミング、最も重要な接点において、少しの気づきや工夫をすることで売上は大きく変わる。
しかし、「頭でっかち」「計画至上主義で現場を知らない」場合は、テレビCM打ったのに売れない、サイトにお金をかけて作ったのに売れない、という時点で諦めたり「失敗した」と結論づけたりしてしまう可能性がある。
集客のみならず事業の成否すら即断してしまうようなことも少なくないのだ。
ネーミングを変えるだけで売り上げが変わることを知らない
現場の細かな(だが、重要な)戦術、ノウハウは広告だけではなく「ネーミング」にも関係する。
商品・サービスのネーミングを変えただけで、売上が何倍にも増えることがある。
例えばレナウンの紳士用靴下。
売り出した当初は「フレッシュライフ」だったが、これを「通勤快足」に変えたら売り上げが13倍になった。
品質は全く同じでネーミングだけ変えたら13倍である。
伊藤園の缶入りのお茶は「缶入り煎茶」から「お~いお茶」になって6倍になった。
お~いお茶はそれ以来、長期に渡って「ペットボトルお茶」のトップブランドとなり、知らない人はいない商品になっている。
また、ネピアの高級保湿ティッシュペーパーが「ネピアモイスチャーティッシュ」は「鼻セレブ」に変えて売り上げは4倍になった。
ヤマト運輸が日本を代表する流通業者になったのは「宅急便」というネーミングをしたことがきっかけといえるし、ブランド名、商品名を「ダメなら変えてもいい」「変えたらいい結果になるかもしれない」ということを知っているだけでも柔軟な対応ができる。
まとめ
マーケティングの業界では、目新しさや新しい手法(ビッグデータマーケティングとか)の研究がもてはやされる傾向がある。
戦略ばかりが議論されて、実践・実行・戦術が軽視されやすいのだ。
戦略は遠いところで練るが、戦術を繰り出す場面というのは、実践の場であり、そこには顧客が目の前にいる。
一番重要な「目の前」で何を見せるのか、どんな話をするのか。というノウハウが売り上げを左右するのは言うまでもない。
昔と違い、広告やダイレクトマーケティングなどの実践ノウハウもたくさん世に出ているので、「良い商品だが売れない」「売れると思ったのに売れない」と結論を出してしまう前に「ちゃんと魅力を伝えられているか」「印象に残りやすいか」などを考え、様々なテストをしてみよう。