セブン&アイ・ホールデイングスの鈴木敏文元会長の講話に「顧客のために考えるな、顧客の立場で考えろ! 」という言葉がある。
「顧客のために考える」というスタンスは一見して正しい印象を受けるが、顧客のために考えてあげているという箸った意識が見え隠れしているというのが鈴木元会長の真意なのだ。
そもそもビジネスで客のために考えることは当たり前。
客のことを考えずに成り立つビジネスは、卓越した技術をもっている企業か、規制で守られて殿様商売をしている企業しかない。
そのような売り手優位の業界はそう多くない。
「客のために考える」ではリピート需要の獲得はムリ
「客のために考える」という言葉からは、新しい機能を提供してあげる、新サービスを使わせてあげるといった、 どこか売り手上位な姿勢がにじみ出る。
こうした立ち位置でいる限りマーケティングが目指す顧客満足とその結果としてのリピート需要を獲得することは困難なのだ。
一方で「顧客の立場で考える」は、そもそもの視点が顧客側にあることが大きな違いといえる。
視点が売り手にある「顧客のために考える」では決して見えてこない、顧客が本当に求めるものが、 「顧客の立場で考える」ことによってあぶり出されてくる。
シニア世代向けのクラブツーリズムでの工夫。
シニア世代のパッケージ旅行で人気の企業「クラブツーリズム」は、徹底してシニア世代の研究をした。
どうしたらシニアの満足を獲得できるのか、 どんなことに関心を示し、どんなことに価値を見出すのかを探索し、旅行商品や仕組みに落とし込んでいる。
「クラブツーリズム」に「エコースタッフ」という制度がある。
「クラブツーリズム」が発行する旅行情報誌「旅の友」の配送業務をサボートするスタッフのことで、地域における仲間作りのリーダー役、「クラブツーリズム」と顧客をつなぐ役割を担っているのだ。
これはシニア世代の「人の役に立つ活動をしたい」という欲求を捉えた上での施策といえる。
このように、客からの支持を獲得するには専門家としての知識やこれまでの経験を忘れて、客の特性や使用シーン、生活や日常活動の中にある「困りごとはないか」を相手の立場で考えることが求められる。
自社の技術を使って、どのような価値を提供できるのか考えていくことは重要なことだが、それを客の立場で検証することが必要なのだ。
まずは相手を知る
マーケティングでは「客の立場で考える」ことが重要だが、まずは何をすればよいのだろうか。
まずは客がどのような人(企業)であるのか、年齢や性別、ライフスタイルや職業、所得などの属性を知ることが第一歩となる。
法人相手のビジネスであれば、企業の業種や取り扱い商品、従業員数や売上規模などを知る必要がある。
その上で、相手の欲求を探索することになる。
中でも最も大きな欲求に焦点をあてて、自社商品による解決方法を検討しく。
欲求に関してマーケティングでは2つの欲求を捉えていくことがポイントとなる。
1つニーズ、もう1つはウォンツだ。
ニーズを把握するとは?
ニーズはある事態に対して必要性を感じ、その状態を改善しようとする欲求のことだ。
例えば「のどが渇いた」はニーズになる。
のどが渇いた状態を改善したいという欲求で、法人企業のニーズでは「業務を改善したい」とか「快適な職場環境にしたい」などがそれにあたる。
対するウォンツは、状態を改善してくれる特定の商品を購入したいと感じる欲求だ。
「のどが渇いた」というニーズに対して「スーパードライ」や「プレミアムモルツ」が飲みたいと感じる欲求、それがウォンツになる。
このように客には2つの欲求がある。
商品・サービスの提供側としては両方の欲求に対して適切に対応することが必要となる。
必要性がないと商品やサービスを購入したいと感じないし、数ある競合商品の中から自社商品・サービスを選んでもらえない。
ターゲットとする客のニーズはどのようなものがあるのか、そして自社商品・サービスを選んでいただくにはどうしたらよいのかを検討しなくてはならない。
ニーズについて考えると新たな切り□を探し出すヒントが見つかることが多い。
通常商品の企画をする際にはウォンツベースで検討していくことが多いが、二一ズベースで考えるとどうなるのか?ということだ。
レビット教授というマーケティング学者の言葉に「顧客はドリルが欲しいわけではない。直径5mmの穴を開けたいのだ」という有名なフレーズがあるが、これはニーズの重要性を分かりやすく示している。
ドリルメーカーはドリルのことしか頭になくどのような素材や形状にしたらよいかということに終始しがちだ。
そうではなくて直径5mmの穴を開ける別の手段を考えるという発想の転換といえる。
プレス機のようなもので穴を開けられるかもしれないし、カッターで簡単に穴が開くような材質を開発できるかもしれない。
ウォンツベースで考えるだけでなく、あくまでニーズがあってウォンツがあるんだということを認識することが重要なのだ。