マーケティング&セールスに関わる者なら、
商品を売るな、モノを売るな!
という話を聞いたことがあるだろう。
「顧客が求めているのは、商品そのものではない」という教えだ。
ドリルが欲しいのではなく、穴が欲しかったのだ、という有名な話
これは最近になって言われていることではなく、元々は1960~1970年代に活躍した「マーケティングの神様」と呼ばれるセオドア・レビットが伝え始めたもの。
レビットが「マーケティング発想法」(ダイヤモンド社 1971年)で紹介したアメリカの工具メーカーの社長のことばを紹介した以下のセリフがとても有名だ。
「昨年度、4分の1インチ・ドリルが100万個売れた。これは、人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからではなくて、4分の1インチの穴を欲したからである」
人々は「ドリルが欲しいのではなく、穴が欲しかったのだ」という話は今もマーケティングの基礎として語られることが多い。
”商品”であるドリルは穴を開けるための手段のひとつにすぎない。
たとえば、小さな穴なら尖った「キリ」で手であけることができるし、レーザーで一瞬にして穴が開けられる商品があれば、ドリルでなくレーザーでOK、となる。
また、わざわざ穴をあける道具を買わなくても、レンタルしたり、知り合いの大工やDIYが得意な人に頼んでもいい。
レビットはドリルの話を通じて「人は商品を買うのではない、商品のもたらす恩恵の期待を買うのである」と伝えている。
恩恵の期待というのは、得られるであろう便益(便利で有益なこと。メリット、ベネフィット。与える者の視点からみた場合に使われる)のこと。
受け取るものからすると、効用や問題解決(ソリューション)への期待ともいえる。
つまり、顧客に対して(物を売りたい相手に対して)「この人は何がしたいのだろう」と想像したり洞察したりすることが大切なのだ。
それが分かれば、何を提供するか分かるし、その商品でそれが実現できますよ、と伝えればよい。
機能やスペックの説明と何が違うのか?
ここでポイントになるのは、メリットやベネフィットは「機能や特徴、スペック」とは違う、ということだ。
機能やスペックによって満たされるのがメリット・ベネフィットである。
たとえば、パソコンやスマートフォンのマイクロプロセッサの高速化や、画素数などのスペックは、顧客が動画やアプリケーションソフトを円滑に取り扱えるようにするベネフィットのためのものだ。
「CPUがインテルです。カメラの画素数は500万です」と機能を伝えた場合、受け取る側がそれをベネフィットに変換することはある。
テクノロジーに詳しい人は「インテルなら安心だな。500万画素だと今持っているカメラより綺麗に取れるな」と分かる。
しかし、テクノロジーに疎い人はその機能によってどんなベネフィットが得られるか分からない。
玄人向けの商品は別として、一般向けに販売するなら「このCPUによって、パソコンの処理時間が早くなって、待たされるストレスがなくなりますよ」
「500万画素なので、花の細かい模様まできれいに映りますよ」などの顧客にとってのベネフィットを分かりやすく伝えることが求められるのだ。
これが「単に機能やスペックを説明するだけでは、売るためのメッセージとしてじゅうぶんではない」といわれるゆえんである。
どんな業界にも「物を売るな」の意識は重要
「ドリルの穴の話」ほど有名ではないが、レビットは化粧品メーカー、レブロンの社長のことばも紹介している。
「工場では化粧品をつくる。店舗では希望を売る」
またレビット自身も
「衣料業界では、メーカーが売るのはドレスではなく流行である」
と指摘している。
何を売るにしても「相手のベネフィット」=「相手のライススタイル、未来をどう良く変えるか?」を意識することが大事なのだ。