「誰にも知られたくない秘密の戦略」であっても、それは計画段階だけの話であり、世に出せば何でも真似される。
ビジネス戦略もマーケティング戦略も、その商品・サービスが世に出れば「あぁ、こういうことを狙っているだな」と分析される。
ソフトウェアもハードウェアもリバースエンジニアリングをされてしまえば設計やソースコードまで明らかになる。
この記事は「マーケティング戦略は真似されるので、それをあらかじめ組み込んでおく」ことをテーマにしてみよう。
戦略のコモディティ化
今日では、戦略はすぐにコモディティ化、つまりどこにでもある日用品のように一般化してしまう。
戦略が必要であることや、その具体的なつくり方はインターネットや書籍で広く知られるようになった。
戦略の種類や立て方、他社の分析などさまざまな情報がたやすく手に入るようになったので、「誰もが似たような知識で似たような戦略の立て方をする」という時代になっている。
また、「これはダメなのでは?」「売れないのでは?」と懐疑的に見られていた戦略や商品・サービスでも成功が明らかになるとあっという間に模倣される。
ソフトウェアバンクが日本で初めてiphoneを発売したのは2008年だが、期待が集まるいっぽうで「ワンセグがない」「電子マネーが使えない」「タッチパネルは馴染まない」など批判的な声もたくさんあった。
しかしそれが成功すると、携帯端末からボタンは一気に消え去り、あらゆる企業がスマホを作った。
2008年といえば、エアビーアンドビーが民泊の紹介サービスを始めた年だが、そのときはシリコンバレーの著名な投資家からことごとく出資を断られた。
2009年になり、資金が底をつき倒産寸前に追い込まれるなか、老舗のベンチャーキャピタルがついに出資し、お墨つきを得られ、事業も急速に成長し始め、注目を集めていった。
2011年になる頃、欧州など手薄だったた地域をカバーする大規模な模倣サイトが登場するなど、ビジネスモデルや戦略がひとつのブームとなった。
投資家に見向きもされなかった戦略も、3年足らずでコモディティ化していったのだ。
模倣化戦略とは
近代ビジネスでは「模倣」も(立派なとは言えないかもしれないが)戦略として認知されている。
「パクりました」とは声に出して言わないが、これ、真似したよね、というビジネスはそこらじゅうにある。
マーケティングの重鎮、フィリップコトラーは真似をする戦略=模倣化戦略を分かりやすくカテゴライズして説明してくれている。
- リーダー:パイオニア。全方位で量をかせぐ。
- チャレンジャー:リーダーが真似できない差別化で勝負。
- フォロワー:コストをかけずにリーダーやチャレンジャーを模倣。
- ニッチャー:他社が進出してこない隙間を抑え得意分野に集中する。
自社がどこを狙うか、を考えるときにこの分類はとても参考になる。実際の(ある程度規模の大きい)ビジネスもだいたいこれで分類できるからだ。
携帯・スマホ分野でいうと、1がドコモやauで、2がiphoneをもってきて勝負をかけたソフトバンク。3は楽天モバイルやMVNO、4は(ちょっと毛色が違うが)ガラケー専門の中古販売業者など。
商品・サービスが溢れている時代に「リーダー」になれるのは一握りで、多くはチャレンジャーやフォロワー、ニッチャーである。
自分はどこを目指すのかによって、どこに投資すべきか、何を重視した戦略にするのかが見えてくる。
そして重要なことは「他社もどこかから、攻勢をしかけてくる」ということだ。
自分が「リーダー」なら、やがてチャレンジャーやフォロワーが生まれてくる。
自分が「チャレンジャー」なら、リーダーは差別化を消してくる。
自分が「フォロワー」なら、他社もコストを下げてくる。
自分が「ニッチャー」なら、他社も専門分野を特化して攻めてくる。
こういうことを想定しておくか、何も考えていないかで大きな差がつくのは間違いない。
真似される、模倣されることを計画に織り込む。
成功に味をしめて立ち止まってしまうのか。
それとも常に進化を止めないのか。
そういう話に近い。
人間も企業も成功を収めるためのポイントは同じかもしれない。
Amazonは、最初「ただのネットで本を売るECサイト」だった。誰もがそんな風に見ていたし、本をネットで売ることは楽天や他のサイトでもスタートしていった。
しかしAmazonは「真似されるのは当然すぎること」とでも言わんばかりに、過去には目もくれずにどんどん進化をしていった。
誰がAmazonが動画配信サービスをするようになると予想しただろう?オリジナルのハード端末(fire)を作って数千円で売ると予想しただろう?
もしAmazonが「通販ビジネス会社」というセルフイメージで、通販だけやっていたら真似できる会社はいくつかあったし、「数ある通販会社」の1つで終わっていたかもしれない。
他社を置き去りにするほど、真似が追い付かないほど進化していく企業だけが大きく勝てる、ということがAmazonをみているとよく分かる。
しかし、世界トップの企業は遠い。近い所で考えるべきは「他社に模倣戦略をとられることを前提に、それを最初から計画に織り込んでおく」ということだ。
最近、面白いなーと思った例が、サントリーのペットボトルコーヒー、クラフトボスだ。個人的にこのクラフトボス(特にブラック)が大好きで、何がよいかというと「酸味」「苦み」がない。
旨味とコクだけ、という感じだろうか。スッキリしていて飽きがこず、ゴクゴク飲めるのだ。
で、何が素晴らしいかというと、間髪入れずに「クラフトボスTEA」という紅茶を出してきた。
これも(たぶん)コーヒーと同じコンセプトで開発していると思われ「とにかくスッキリ飲みやすい」のだ。
コーヒーはスーパーで売り切れになるほど人気だが、いずれ「スッキリ系のコーヒー」は真似されて競合が生まれる。
それよりも先に、紅茶の分野にも進出し、「スッキリ飲みやすいコーヒー・紅茶ならクラフトボス」というポジションを取ろうとしているのだ。
簡単にいえばヒットを出しても慢心せず、安心せず、どんどん進化させたり、次の展開を講じていったりすることで「やがて誰も勝てなくなる」ことを狙うことが最上の戦略だといえる。
メーカーでいえば、きちんと特許をとる、特許を活かして別の商品にすぐにとりかかる。
コスト勝負の会社なら、さらに安く仕入れられる取引先を作る、自社で生産することを計画する、など「コストの関しては追随を許さない」ことを「できるだけ早く」考えて手を打つことが重要になる。
ニッチャーとして専門分野を抑えるなら「もう2つ3つ、イケそうな分野はないだろうか」と考える。
可能であれば「一発目を出す時点で、次の手も考えておく」ことだ。
(こう書いて思い出すのは、文春砲だが)
漫画の世界でも、伏線を仕込んでいる漫画が人気になることが多い。いきあたりばったりではなく、あらかじめ仕込んでおく、見抜いておく、次の手を打っておくことを考えられる会社、人間が成功するのだ。