マーケティングとセールス

コトラーのマーケティング・マネジメント体系「R-STP-MM-I-C」を要約してみる

マーケティングの理論や概念は数多く生み出されているが、いわゆる「標準体系」というものは存在しない。

「こうしなければならない」というルールもないわけだが、先人が産み出した体系を元に考えることでマーケティング戦略考察を効率化できる。

どんな要素がポイントになるのか知り、それぞれの要素で考察・見直しを行えるからだ。
現在、もっともメジャーなマーケティングの体系の1つが、フィリップコトラーの「マーケティング・マネジメント」。

「R-STP-MM-I-C」で表される体系で、全体像は以下の図のとおりである。

コトラーマーケティングマネジメント図解(PDF)

ざっと見ただけでは、何のことを言っているのか分かりにくいので、要約、解説を加えてみよう。

RからSTP

R:市場調査(Research)

どのくらいの規模の市場か、ライバルは何社あり、どんな商品を売っているか、顧客となりそうな人たちのニーズやウォンツは何か?などを全体的に調査する。

S:市場細分化(Segmentation)

顧客の集まりである市場を同じニーズとウォンツをもつ部分ごとに分ける。

地理(都道府県市区町村など)、人口動態(年齢・性別・家族・所得・職業・学歴など)、心理(ライフスタイルやパーソナリティなど)、行動(利用場面・利用経験・利用水準・ロイヤルティなど)の4つの切り口を組み合わせて分割する。

かつては年齢と性別が同じであれば、ニーズやウォンツはほぼ同じだった(実際には同じではないがだいたい似ていた)。

女性であればF1層(20~34歳の女性)、F2層(35~49歳の女性)などと区分するだけで、細分化はできた、といえるが、今日では20歳の女性と30歳の女性ではかなりライフスタイルは異なるし、考え方や嗜好も多様だ。

単純に年齢と性別だけで細分化するのは難しく、より細かな細分化が求められるようになっている。

例えば、地理的な細分化では、全国を町丁目単位で18万の居住地域(地域あたり平均で300世帯)に分け、「富裕層住宅地」「エグゼクティブ層が多く住む都心地域」「アッパーミドル層が多い郊外地域」などといった類型に分類したりする。

同じ高所得者でも、居住地域によって価値観や購買行動が異なるからだ。

ひと昔のように「東京」「地方」などとざっくり分けていてはじゅうぶんな細分化にならない。

T:ターゲティング(Targeting)

市場全体のなかから、自社がニーズとウォンツをうまく満たせる標的となる部分を見極めていく。

例えば、アシスト付き自転車を売る、となったとき、ニーズがあるのは小さいお子さんを自転車に乗せて移動するママさんをターゲットにする、と考えるが、さらに「平坦な土地に居住するママさんではなく、丘陵地の住宅地のママさんに絞って広告を投下していく」などだ。

自社の商品・サービスを得て一番喜ぶのは誰で、なぜか?ということ考えていく。

近年ではスマートフォン、アプリ、GPSなどの機能を使った「リアル行動ターゲティング」も展開されるようになっている。

これもターゲティングの考えによるものだ。

たとえば、無印良品では会員証機能をもつスマートフォンアプリを通じて位置情報を取得し、近くにある店舗の広告を出したり、クーポンを発行したりするとともに、購買行動や商圏の分析にも活用している。

P:ポジショニング(Positioning)

選択した市場の部分で、競合他社とは違った高い価値を認められるように顧客の記憶に残るようなポジションは何か、検討していく。

基本的には「これに関しては一番」というポジションを見つけることが必要で、USPとも深く通じる部分になる。

アシスト付き自転車ならば、「坂道で止まったときにフラつかない」「坂道でスタンドを立てたとき、安定性がすごく高くてグラグラしない仕組み」などは、転倒を恐れるママさんの心を掴むかもしれない。

どこで他社との違いを出すか。自社の商品を選んでもらえる根拠を作るのか、というのがポジショニングになる。

さて、体系どおりに並べれば、上記のようにRから始まり、Sを進め・・・となっていく

この順序は、事後に整理して説明するには、わかりやすくてよい。

しかし、実際に新たにビジネスを検討したり、新商品やリニューアルを考えるときは、むしろターゲティングやポジショニングが固まることで、市場細分化も決まってくることのほうが多い。

「誰に売りたい」から始まって、「その人たちがどこにいるか」みたいな順序で考えることもあるのだ。

いずれにしても、順にひととおり検討するだけでキチンと整理していけることは少なく、何度も行ったり来たりしながらマーケティング戦略、マーケティング・マネジメントを固めていくことになる。

「一番先が市場調査だから」といって、最初にいきなり本格的な市場調査を行うのではなく、ターゲティングやポジショニングなどを検討する過程で、必要に応じて市場調査を行っていく、というスタンスが自然だ。

MM:マーケティングミックス

マーケティングの打ち手は、1.商品(Product)、2.価格(Price)、3.流通(Place)、4.販促(Promotion)の4つのPに整理する。

なので「マーケティング・ミックス」は「4P」ともいわれる。

1.商品(商品・サービス)

基本的には「機能」「品質」「デザイン」「パッケージ」「ブランド」などの要素から商品は成立する。物販では「品揃え」も含まれる。

なおサービスでは、不可欠ではあるけれどもコモディティ化する(誰もが同じようなことをする)中核サービスと、不可欠ではないけれども差別化の要因となりうる周辺サービスとの組み合わせが含まれる。

2000年代になると他社の商品サービスと区別する「ブランド」が差別化のカギとして重視され、4Pとは別に、柱となる無形の資産として独立して位置づけられるようになってきている。

特に巨大メーカはブランド戦略を重視する傾向にあり、「このブランドのファン」という人達をつくることを最大の戦略にしているといっていい。

ブランドは、商品・サービスを特徴づける名称、文字、図形、色彩などの組み合わせからなる概念だが、顧客の認識や感情が付加されていき、商品・サービスを超えた固有の意味や価値、個性をもつようになっていく。

Appleのブランドはiphoneやipadなどのハードとセットと言っていいし、アウディはA8やR8など実際の車体と合わせて人々のイメージになっている。

得られるであろうメリットや効用だけでなく好ましい認識や感情が顧客の頭の中に蓄積され、顧客との強固な信頼関係の基盤となるように、独自のブランドを生み育てていくことが”ブランド”の根幹といえる。

2.価格

標準価格・値引き・取引条件などが「価格」の要素になる。

経営の神様ともいわれる稲盛和夫氏が「値決めは経営」と強調するように、利幅と売れる量の積を極大に近づけるように値決めできるかどうかが、経営の命運を握る。

大企業では国内では人口が減少していくこともあり、売れる量を増やしづらくなっていくので、利幅を広げていく取り組みがこれまで以上に大切になる。

ドンキホーテやダイソーのような低価格を売りにするビジネスモデルは別として、一般的な企業は安売りは最後の手段と心得て、どうすれば高く売れるか、ということを重視する傾向にある。

また、「何によって利益を生むのか」も価格戦略では重要であり、例えばプリンタのように本体は数千円の安価な価格で売り、消耗品であるトナーやインクで継続的に収益をあげるやり方もある。

髭剃りの替え刃などの日用品のマーケットから、通信まで様々な業態で継続課金は重視されている。

携帯キャリアもスマホも本体を安く売り、月々の継続使用料で利益を上げているし、今どきのビジネスとしては月額課金のオンラインサロンもそれに近い。

彼らはビジネスのノウハウを教材として一度に売ることよりも、継続して様々なノウハウを提供し、月々の会費を取るという価格戦略をしているのだ。

ゲームも同じで、以前はソフトウェアを販売するというモデルだったが、今では課金システムが主流になっている。

3.流通

流通というと物流のイメージが強いが、ここの要素には、商品・サービスをみずから直販で売るのか代理店に売ってもらうのか。

どのような販売経路(チャネル)で届けるのか。

売上を大きく左右する店舗の立地をどこにするのか、商品の在庫や配送をどうするかなども含む。

販売の形態、と考えてよい。

コンビニやチェーン展開する飲食店などはここが肝になる。

また、保険販売でも「ほけんの窓口」は販売形態で業績を伸ばした例といえる。

ほけんの窓口登場以前は、小さな保険代理店がそれぞれの地域の基盤の中で保険を販売していた。

「ほけんの窓口」はそのネーミングとともに全国展開し、どこに住む人でも、どんな保険でも「保険の相談、販売はウチで」という戦略をとったのである。

地域密着の代理店がネーミングだけ「ほけんの窓口」と名乗っても、大きな展開にはならない。

ネーミングとポジショニング、そして販売の形態を含めてこれまでの常識を変えた好例だ。

4.販促(販売促進)

広告宣伝、自社の取り組みを社会に認知してもらう広報やパブリシティ、サンプリング(無料配布)、ノベルテイ(景品)、展示会やイベント、クーポンやポイントプログラムから、店舗内のPOP広告まで幅広い要素がある。

対面で実際に売る場面であるセリング(セールス)も、販促の中の1つの要素になる。

いわば、「顧客にどうやって認知してもらい、実際に触れたり試したりしてもらい、最終的な購買につなげるか」という部分になる。

「良い商品、今までにない商品を作ったのに売れない」という場合は、「販促」の計画や戦略がうまくいっていないケースが多い。職人気質の会社、個人が苦手な分野かもしれない。

現代マーケティングでは、マーケティングといえば販促といえるほど重要視されており、予算も大量に投下されるケースが多い。

コトラーは「日本は販促に偏りがち」と指摘しているとおり、広告の要素が強い。

確かに強い広告は有益な武器だが、それ以外のマーケティング・マネジメントの要素が軽視されている傾向にある。

例えば、シニア向けの商品でグッドデザイン賞を獲得し、広告も戦略的に打ったのはいいが、シニアには読めない英語のブランド名にしたことで売れなかった、という笑い話のような実話もある。

マーケティングの各要素を1つ1つ押さえていき、それぞれの要素での点数を高めていくことが高度なマーケティング戦略を実現する最大のヒントだといえるのだ。

I:実行(Implementation)

ここまで実施してきた調査、計画、戦略を実際の市場で行動に移す。

これは大企業になればなるほど複雑になる。人事的な要素や世界的な景気動向などにも左右されることもある。

また、政治や自然災害、事故、事件、国と国との関係、地価や相場などにも影響される。
PDCAでいうところの「Do」で、予想通りにいかないことも多い。

C:統制(Control)

実行した結果にもとづいて計画を見直すプロセス。

予想どおり進められたことは何か?逆にうまくいかなかったことは何か?

実際にどのくらい売れたのか?見込み客がどれくらい作れて実際にどのくらいの確率で売れたのか?などを分析したうえで見直す点を見直し、再計画が必要であればやり、実行につなげていくことになる。

何をKPIにするのか、数値としてどんな計測ができるのか、など深い要素がたくさんあるが、マーケティングの世界では軽視される傾向にある。

まとめ

マーケティング・マネジメントの体系は、「ぼんやりとしたマーケティング」を要素分解して、それぞれ詰めていくためにはとても有益である。

大企業は自然と要素を網羅的に押さえることになるが、小規模な会社や個人の場合は「マーケティングといえば販促」という意識が強い。

小さな組織でもマーケティング・マネジメントを学ぶことで他社より練られた「売れる仕組み」を構築していくことができるはずだ。

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