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相続した実家を貸す — 収支と出口から考える

実家を売るのは寂しい、いずれ誰かが住むかもしれない、家賃収入があれば固定資産税を賄える。そう考えて「貸す」を選ぶ人は少なくありません。ただし、貸すという判断には売却の特例が使えなくなる借主がつくと売りにくくなるという不可逆な面があります。このページでは、手残りの計算、必要な初期費用、管理の方法、税務、そして出口までを整理します。

手残りの目安
家賃の6〜7割
管理料・税・修繕・空室を引いた後
初期費用
50万〜300万円
状態次第。水回りで大きく変わる
失うもの
空き家の3,000万円控除
一度貸すと使えない
必要な手続き
相続登記→確定申告
名義変更しないと貸せない

まず収支を計算する

家賃がそのまま収入になるわけではありません。差し引かれるものを先に並べます。

管理委託料家賃の5%前後(集金・入居者対応・退去立会い)。サブリース(一括借上げ)は家賃の10〜20%を引かれる代わりに空室リスクを負わない
固定資産税・都市計画税10万〜20万円(地域と評価額による)。人に貸していても住宅用地の特例は継続する
火災保険2万〜5万円。賃貸用の契約に切り替える(居住用のままだと補償されないことがある)
修繕費給湯器10万〜20万円、エアコン10万円前後、水漏れ、シロアリ。年間家賃の1割程度を積み立てるのが現実的
原状回復・募集費用退去のたびにクロス張替えなどで10万〜30万円、次の募集で仲介手数料(家賃1か月分)と広告料
空室地方の戸建てなら年1〜2か月の空室を見込む。この見積もりが甘いと計算が崩れる
所得税・住民税不動産所得として課税。給与所得と合算されるため、税率が上がる人ほど手残りが減る
計算例 地方の戸建てを月8万円で貸す場合。年間家賃96万円 −管理料5万円 −固定資産税15万円 −保険3万円 −修繕積立10万円 −空室1か月8万円 = 年55万円。ここから所得税・住民税(税率20%なら約11万円)を引いて手残り約44万円。初期リフォームに150万円かけたなら、回収に3年半。これを「割に合う」と見るかどうかが判断の分かれ目です。

貸す前にかかる初期費用

「そのまま貸せる」と思って始めて、水回りで想定外の出費になるのが典型です。不動産会社2〜3社に「この状態でいくらで貸せるか、何を直す必要があるか」を無料査定してもらうのが最初の一歩です。

管理の方法

管理委託家賃の5%前後。入居者募集・集金・クレーム対応・退去手続きを任せる。遠方に住んでいるなら実質的にこれ一択
サブリース(一括借上げ)管理会社が一括で借り上げて転貸する。空室でも一定額が入るが、手取りは家賃の80〜85%。契約期間中の賃料減額請求(借地借家法)でトラブルになる例があり、契約書の減額条項を必ず確認
自主管理手数料ゼロだが、夜中の設備故障の連絡も自分に来る。近所に住んでいて時間があるならあり得る
定期借家契約期間満了で確実に返してもらえる契約。「いずれ売りたい」「子が住むかもしれない」なら、これを選ぶ。ただし家賃は普通借家より1割程度安くなる傾向
普通借家契約一般的な契約。借主が住み続けたいと言えば、貸主から正当な事由なく更新を拒めない。出口が読めなくなる
補足
「貸す」で見落とされがちなのが契約の型です。普通借家で貸すと、借主が居座る権利は法律で強く守られます。数年後に「売りたい」「子が住みたい」となっても、立退料(家賃の6か月〜1年分が目安)を払って交渉するしかない。将来の選択肢を残したいなら、最初から定期借家契約にする。家賃が1割下がっても、この差は大きいです。

税金と確定申告

共有名義のまま貸すリスク

遺産分割で決めきれず、共有のまま貸し出すケースがあります。実務上の問題を知っておいてください。

賃貸借契約短期の賃貸借(建物3年以内)は持分の過半数で可能だが、長期や普通借家は全員の同意が必要と解される場面がある
修繕の判断大規模な修繕は全員の同意。給湯器が壊れて連絡がつかない共有者がいると、対応が止まる
家賃の分配持分に応じて分配し、各自が申告。1人が管理する場合は収支の記録を全員に共有する
売却全員の同意が必要。1人でも反対すれば売れない
次の相続共有者が亡くなるとその持分がさらに分割され、共有者が倍々に増える。10年後には収拾がつかなくなる

結論として、貸すなら共有を解消して単独名義にしてからが原則です。単独名義にした人が家賃を得て、他の相続人には代償金や他の財産で調整するのが、後々の揉め事を防ぎます。

売る・貸す・使うの比較

売る現金化して分けられる。3,000万円特別控除(要件を満たせば)。維持の手間と将来のリスクが消える。相続開始から3年目の年末という期限がある
貸す家賃収入。ただし手残りは家賃の6〜7割、初期費用の回収に数年。特例は使えなくなり、出口が制約される
自分か家族が住む維持費を自分で負担する代わりに、住居費が浮く。将来売る場合は「居住用財産の3,000万円特別控除」が使える可能性
更地にして駐車場建物の管理から解放されるが、住宅用地の特例が外れて固定資産税が最大6倍。需要のある立地でないと成り立たない
そのまま空き家最も不利。維持費は出続け、特定空家に指定されれば固定資産税が最大6倍、建物は傷み売却価格も下がる

やめるときの出口

チェックリスト

よくある質問

相続した実家を貸すと、手元にいくら残りますか
家賃の6〜7割が目安です。月8万円で貸す場合、年間家賃96万円から管理料・固定資産税・火災保険・修繕積立・空室分を引いて年55万円、さらに所得税・住民税を引いて手残りは年44万円程度。初期リフォームに150万円かけたなら回収に3年半かかります。
貸すと売却の特例は使えなくなりますか
使えなくなります。空き家の3,000万円特別控除は「相続後に誰も住まず、貸さず、事業にも使っていないこと」が要件のため、一度でも賃貸に出すと永久に適用できません。売る可能性があるなら、貸す前に損得を計算してください。
共有名義のまま貸せますか
短期の賃貸借は持分の過半数で可能ですが、長期や普通借家は全員の同意が必要と解される場面があり、修繕や売却も全員の同意が要ります。次の相続で共有者が倍増するため、貸すなら共有を解消して単独名義にするのが原則です。
将来売りたくなったらどうなりますか
普通借家契約だと借主の居住権が強く守られ、立退料(家賃の6か月〜1年分が目安)が必要になることが多いです。借主がついたまま投資物件として売る方法もありますが価格は下がります。将来の選択肢を残したいなら、最初から定期借家契約にしてください。
確定申告は必要ですか
必要です。家賃収入から経費を引いた不動産所得が給与所得と合算されて課税されます。共有名義なら持分に応じて各共有者が申告します。青色申告の10万円控除は事業的規模でなくても届出により使えます。

あわせて確認 — 売る場合の税金は相続した実家の売却、貸す前提の名義変更は相続登記、共有を解消する話し合いは遺産分割協議書、家財の撤去は遺品整理へ。判断に迷うときは相談先の選び方に。

※費用・利回りは地域と物件により大きく異なる一般的な目安です。本ページは一般的な説明で、税務の判断は税理士にご確認ください。現時点で広告・紹介料を伴うリンクは含まれていません。