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親の運転免許の返納 — 説得ではなく、合意にする
親の運転が心配だが、言えば怒られる。この状況は、多くの家庭で数年続きます。免許は移動手段であると同時に、自立の象徴だからです。頭ごなしの「返納して」が通らないのは当然で、必要なのは説得ではなく、返納後の生活が成り立つという見通しです。このページでは、返納手続きの実務、75歳以上の検査の仕組み、返納後の移動手段、そして話の進め方を整理します。
手続き
警察署か運転免許センター
本人が。代理は原則不可
運転経歴証明書
1,100円
返納から5年以内に申請
75歳以上
認知機能検査
更新のたび。一定の違反歴で技能検査も
話し方
代替手段が先
「返納して」より「これで行ける」
返納の手続き
| 正式名称 | 申請による運転免許の取消し。一部だけ返す(大型は返して普通車は残す)ことも可能 |
|---|---|
| 窓口 | 警察署の交通課、運転免許センター、運転免許試験場。本人が出向くのが原則。入院などで来られない場合は、事前に警察署へ相談(代理申請が認められる場合がある) |
| 持ち物 | 運転免許証。手数料は不要(返納自体は無料) |
| 所要時間 | 30分程度。予約不要の窓口が多いが、免許センターは混雑する日がある |
| 運転経歴証明書 | 希望すれば同時に申請できる。手数料1,100円、写真が必要(窓口で撮影できる場合も)。返納から5年以内なら後日でも申請可 |
| 取り消せるか | 返納後の撤回はできない。再取得するには、教習所に通って試験を受け直す |
運転経歴証明書は「身分証」として使える
免許証を返すと本人確認書類がなくなる、という不安が返納をためらう理由の一つです。運転経歴証明書はその代わりになります。
- 有効期限がない — 一度取れば一生使える。金融機関の口座開設、携帯電話の契約、行政手続きで本人確認書類として認められる
- 自治体・事業者の特典 — バス・タクシーの割引、商店街の割引、美術館の入館料減免など。内容は自治体により大きく異なるので「自治体名+運転免許 返納 特典」で検索。この特典の存在が、返納の後押しになることが多い
- マイナンバーカードとの併用 — 顔写真つきの本人確認書類としてはマイナンバーカードも使える。返納の前に取得しておくと安心感が増す
75歳以上の更新の仕組み
| 認知機能検査 | 75歳以上は更新のたびに受検。記憶力・判断力を測る。結果が「認知症のおそれあり」だと医師の診断が必要になり、認知症と診断されれば免許は取消し・停止 |
|---|---|
| 運転技能検査(2022年5月〜) | 過去3年間に信号無視・速度超過などの一定の違反歴がある75歳以上は、実車での技能検査に合格しないと更新できない。何度でも受け直せるが、期限内に合格しなければ失効 |
| 高齢者講習 | 70歳以上は更新前に受講が必要。実車指導と講義 |
| 臨時認知機能検査 | 75歳以上が特定の違反をした場合、更新時期を待たずに検査を受ける |
| サポートカー限定免許 | 2022年5月から。安全運転支援装置のついた車だけ運転できる限定免許に切り替えられる。「全部やめる」ではない中間の選択肢 |
制度上、認知症と診断されれば免許は継続できません。逆にいえば、検査に通っている限り運転する権利があるのも事実です。だから家族の「危ないから」だけでは動きません。
補足
返納の話が進まない家庭に共通するのは、「運転をやめること」だけを議題にしていることです。親にとっての本当の問題は、病院に行けるか、買い物に行けるか、友人に会えるか。そこの答えを用意しないまま返納を求めるのは、生活を奪う提案に聞こえます。先に代替手段を調べ、実際に一緒に使ってみる。順番を変えるだけで、会話がまったく違うものになります。
返納後の移動手段
| コミュニティバス・乗合タクシー | 多くの自治体が運行。高齢者は割引や無料のことも。路線と時刻表を印刷して渡す |
|---|---|
| タクシー券・助成 | 高齢者向けのタクシー利用券を配る自治体がある。要件(年齢・所得・要介護度)は自治体次第 |
| 介護保険の通院等乗降介助 | 要介護1以上なら、ヘルパーによる通院の送迎介助が使える(介護保険)。ケアマネジャーに相談 |
| 買い物支援 | ネットスーパー、生協の個配、移動販売車、商店の宅配。子が代わりに注文して届けるのが遠方でもできる支援 |
| 病院の送迎 | 通院の送迎バスを持つ病院・クリニックがある。かかりつけに確認 |
| 電動アシスト自転車・シニアカー | 近距離なら現実的。ただし転倒リスクがあるため、本人の体力と道路事情を見て判断 |
| 家族の送迎 | 「週末は自分が」と決めると親も遠慮なく頼める。曜日を決めるのがコツ |
費用の比較 車の維持費は、軽自動車でも年20万〜30万円(税金・保険・車検・ガソリン・駐車場)。タクシーを月8回・1回1,500円使っても年14万4,000円。返納した方が安いことが多い——この計算は、経済的な理由で返納をためらう親に効きます。実際の維持費を一緒に計算してみてください。
話の進め方
- 1. 事実を集める — 車の傷、ヒヤリとした話、近所からの指摘。責めるためではなく、話す材料として。「危ないから」だけでは動かない
- 2. 代替手段を先に調べる — 自治体のバス路線、タクシー券、買い物支援。パンフレットを取り寄せる
- 3. 一緒に試す — 帰省したときにバスに乗ってみる、ネットスーパーを一緒に注文してみる。「これなら行ける」と本人が実感するのが転換点
- 4. 期限を切らない — 「次の更新まで」「体調が悪くなったら」と、本人が決められる形にする
- 5. 第三者の言葉を借りる — かかりつけ医、ケアマネジャー、警察の安全相談窓口。家族より受け入れられることが多い
- 6. 特典を伝える — 運転経歴証明書と自治体の特典。「損ではない」という材料になる
- 7. 中間の選択肢を示す — サポートカー限定免許、夜間や高速道路は運転しない、遠出はやめて近所だけ。全部か無かにしない
事故を起こしてしまったら
備えの話と合わせて、万一のときの流れも知っておきます。高齢ドライバーの事故は、賠償額が家族の生活に及ぶことがあります。
| 直後 | 負傷者の救護と119番、警察へ届出(義務)。保険会社への連絡。示談をその場でしない |
|---|---|
| 賠償 | 任意保険の対人・対物が無制限なら、多くは保険で対応できる。補償が有限だと不足分は本人と、場合により家族の負担になる |
| 家族の責任 | 原則として運転者本人の責任だが、認知症などで責任能力がないと判断された場合、監督義務者としての家族の責任が問われる可能性がある(最高裁の判断では、同居・介護の実態などから個別に判断される) |
| 免許の扱い | 重大な違反・事故なら取消しや停止。75歳以上は臨時認知機能検査の対象になることも |
| その後 | 本人が運転を続ける意思を示しても、事故は返納の話をする現実的な機会になる。責めるのではなく、次の移動手段の話に切り替える |
返納しない場合の備え
本人が納得しないまま無理に取り上げることはできません。運転を続ける前提での安全対策も現実的な選択です。
- サポカー(安全運転サポート車)への乗り換え — 自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置。買い替えが難しければ後付けの加速抑制装置(数万円)も。自治体が補助を出す例がある
- ドライブレコーダー — 運転の様子を家族が確認できる。急ブレーキ・急ハンドルの記録は、話し合いの材料にもなる
- 任意保険の確認 — 補償額(対人・対物とも無制限が基本)、運転者年齢条件、人身傷害。高齢者の事故は賠償額が家族に及ぶため、ここは必ず確認
- 運転範囲の合意 — 「夜は乗らない」「高速は使わない」「雨の日はやめる」。書き出して冷蔵庫に貼る家庭も
- 認知症の兆候 — 道に迷う、車庫入れで擦る回数が増える、逆走の経験。こうした変化があれば、かかりつけ医に相談。認知症とお金の備えも同時期の課題になる
チェックリスト
- 親の運転の実態(頻度・行き先・ヒヤリ経験)を把握した
- 自治体のコミュニティバス・タクシー券・買い物支援を調べた
- 車の年間維持費を計算し、タクシー利用と比較した
- 帰省時に代替手段を一緒に試した
- 運転経歴証明書と自治体の特典を伝えた
- かかりつけ医やケアマネジャーに相談し、第三者から話してもらえるか確認した
- 返納しない場合はサポカー・後付け装置・保険の補償額を確認した
- 認知症の兆候があれば医師に相談した(介護保険の申請も検討)
よくある質問
- 運転免許の返納手続きはどこでしますか
- 警察署の交通課、運転免許センター、運転免許試験場です。原則として本人が免許証を持って出向きます。返納自体は無料で、所要30分程度。入院などで本人が行けない場合は、事前に警察署へ相談してください。
- 運転経歴証明書とは何ですか
- 返納した人が申請できる証明書で、手数料1,100円、返納から5年以内に申請できます。有効期限がなく、金融機関や携帯電話の契約で本人確認書類として使えます。自治体や事業者によるバス・タクシーの割引などの特典を受けられる場合もあります。
- 75歳以上の更新はどうなりますか
- 更新のたびに認知機能検査を受け、「認知症のおそれあり」となれば医師の診断が必要です。認知症と診断されれば免許は取消し・停止になります。過去3年に一定の違反歴がある場合は、実車の運転技能検査に合格しないと更新できません。
- 親が返納を拒みます
- 返納そのものより、返納後に病院や買い物へ行けるかが本人の不安です。先に自治体のバス・タクシー券・買い物支援を調べ、帰省時に一緒に試してください。かかりつけ医やケアマネジャーなど第三者の言葉、車の維持費とタクシー代の比較、サポートカー限定免許という中間の選択肢も有効です。
- 返納しない場合、どんな備えができますか
- 安全運転サポート車への乗り換えや後付けの加速抑制装置(自治体の補助がある場合も)、ドライブレコーダーの設置、任意保険の補償額と年齢条件の確認、運転範囲の合意(夜間・高速・雨天は避ける)です。道に迷う、擦る回数が増えるなどの変化があれば、かかりつけ医に相談してください。
※制度と特典は自治体・年度により異なります。本ページは一般的な説明で、健康状態や運転可否の判断は医師にご相談ください。