老人ホーム・施設

高齢者のお風呂と血圧:安全で快適な入浴のために

はじめに

年齢を重ねると、血管の弾力性が低下し、血圧が変動しやすくなる傾向があります。 特に、入浴は急激な温度変化を伴うため、高齢者にとって血圧の乱高下を招きやすく、注意が必要です。  

本記事では、高齢者が入浴する際の血圧への影響と、安全に入浴するための注意点について詳しく解説します。

高齢者と血圧の関係

加齢に伴う血管の機能低下は、高齢者の血圧に大きく影響します。血管は、年齢を重ねるごとに弾力性を失い、硬くなっていく傾向があります。 このような血管の硬化は「動脈硬化」と呼ばれ、血液の流れを阻害し、心臓に負担をかける原因となります。 心臓は、硬くなった血管に血液を送り出すために、より強い力で血液を押し出す必要があり、その結果、収縮期血圧(最高血圧)が上昇しやすくなります。  

高齢者の血圧に影響を与える要因は、動脈硬化だけではありません。自律神経の働きもまた、加齢とともに衰え、血圧変動のリズムが乱れやすくなります。 夜間睡眠時の血圧が十分に下がらない「夜間高血圧」や、朝方に高い血圧が続く「早朝高血圧」も、高齢者に多く見られます。  

研究によると、高齢者の入浴中の血圧、心拍数、末梢血管抵抗は、入浴の各段階(安静時、洗体時、入浴時)で変化することが示されています。安静時を基準にすると、洗体動作終了時に収縮期血圧は最高値に達し、入浴中は5分経過時に最低値を示すものの、安静時と比較して有意な低下は認められませんでした。このことから、高齢者では入浴中の血圧変動が大きく、注意が必要であると言えます。  

CauseDetailsExample Measures
加齢による血管の弾力低下動脈硬化の進行により血管壁が厚く硬くなり、血液が流れる際の抵抗が増加有酸素運動を日課にし、バランスのよい食事を心がける
塩分過多外食や加工食品、漬物の多用だしや香辛料を活用し、薄味に慣れる
運動不足筋力低下・体脂肪増加ウォーキングや軽い筋トレを継続する
ストレス過多交感神経の過度な亢進趣味やリラクゼーションで気分転換を図る
遺伝的要因家族に高血圧が多い家庭血圧の管理や早期受診を徹底する
既存疾患糖尿病・脂質異常症・腎疾患など原因疾患のコントロールを優先し、合併症を防ぐ

これらの要因に加え、収縮期血圧が160mmHg以上、または拡張期血圧が100mmHg以上の高齢者では、入浴時の事故の危険性が正常血圧の高齢者の3~4倍に高まるという報告もあります。 また、体温が37.5℃以上の高齢者も、入浴関連の体調不良や事故のリスクが高いことが示唆されています。 そのため、高齢者が入浴する際には、血圧と体温を事前に確認することが非常に重要です。  

入浴による血圧の乱高下を防ぐには?

入浴による血圧の乱高下を防ぐためには、以下の点に注意することが重要です。

入浴前の準備

  • 脱衣所と浴室の温度差を少なくする 暖かいリビングから寒い脱衣所や浴室に移動すると、急激な温度変化で血圧が大きく変動します。 入浴前に脱衣所や浴室を暖房器具などで暖めておく、シャワーでお湯を撒いておくなどして、温度差を少なくしましょう。  
  • 水分補給 入浴中は発汗により体内の水分が失われ、脱水症状に陥りやすくなります。 脱水症状は血圧の低下を招き、めまいやふらつきの原因となることがあります。入浴前にコップ1杯の水を飲むなど、水分補給を心がけましょう。 特に高齢者は、のどの渇きを感じにくい傾向があるため、 1~2時間おきに水分を摂るなど、こまめな水分補給を心がけましょう。  
  • 血圧と体温の測定 入浴前に血圧と体温を測定し、体調を確認しましょう。 いつもより血圧が高い場合や、発熱がある場合は、入浴を控えるか、かかりつけ医に相談してください。  

お湯の温度と量

  • 適切な温度設定 熱いお湯に長時間入ると、心臓に負担がかかり、血圧が急激に低下することがあります。 お湯の温度は38~40度くらいに設定し、熱すぎないようにしましょう。 特に心臓病や高血圧の人は40度以下にすることが望ましいです。  
  • 半身浴 全身浴に比べて心臓への負担が少ない半身浴は、高齢者におすすめです。ぬるめのお湯にゆっくりと浸かることで、血行が促進され、リラックス効果も期待できます。

入浴時間

  • 入浴時間の目安 長湯は、血圧の低下や脱水症状、のぼせなどを引き起こす可能性があります。 お湯に浸かる時間は10分以内を目安にしましょう。 高齢者の場合、体力が低下しているため、入浴時間は短めに設定することが大切です。  

入浴後の注意点

  • 急激な温度変化を避ける 入浴後は、血圧が下がりやすくなっています。 また、浴室から出て寒い脱衣所に出ると、血管が収縮し、血圧が急上昇することがあります。 浴室を出る前に、シャワーで少し冷水を浴びるなどして、体の温度を徐々に下げていきましょう。入浴後、急に立ち上がったりすると、めまいやふらつきが起こる可能性があります。 これは、起立性低血圧と呼ばれ、入浴後の血管拡張により血圧が下がりやすい状態で起こりやすくなります。  
  • 休憩 入浴後は、椅子などに座って休憩し、水分補給をしましょう。 高温及び長時間入浴により体温が高くなりすぎた時や、入浴中から急に立ち上がった時などに、脳への血流量減少により一過性の意識障害を起こす可能性もあるため注意が必要です。  

高齢者が安全に入浴するための注意点

血圧の乱高下を防ぐだけでなく、高齢者が安全に入浴するためには、以下の点にも注意が必要です。

転倒防止

  • 浴室内の滑り止め対策 浴室の床は濡れていて滑りやすいため、転倒のリスクが高い場所です。 滑り止めマットを敷いたり、手すりを設置したりするなどして、転倒を予防しましょう。  
  • 手すりの設置 浴槽の出入りや、浴室内の移動をサポートするために、手すりを設置しましょう。

溺水防止

  • 浴槽の深さ 高齢者の場合、浴槽の深さにも注意が必要です。深すぎる浴槽は、立ち上がる際に体力を消耗したり、転倒のリスクを高めたりする可能性があります。
  • 入浴介助の必要性 身体機能が低下している高齢者の場合、入浴介助が必要となることがあります。家族や介護者など、周りの人がサポートすることで、安全に入浴することができます。

ヒートショック予防

  • 冬場の入浴時の注意点 冬場は、急激な温度変化によるヒートショックのリスクが高まります。 脱衣所や浴室を暖めておく、お湯の温度を熱すぎないようにする、長湯を避けるなど、ヒートショック予防対策を徹底しましょう。  

高齢者の入浴に関するQ&A

Q1. 高血圧の人は入浴しても大丈夫ですか?

A1. 高血圧の人は、入浴によって血圧が変動しやすいため、注意が必要です。 上記でご紹介した入浴方法を参考に、血圧の急激な変動を防ぐように心がけましょう。心配な場合は、かかりつけ医に相談することをおすすめします。  

Q2. 入浴中に気分が悪くなったらどうすればよいですか?

A2. 入浴中に気分が悪くなったら、すぐに浴槽から出て、涼しい場所で横になりましょう。 水分補給を行い、安静にして様子を見ます。症状が改善しない場合は、家族や介護者に助けを求めるか、医療機関に連絡しましょう。  

Q3. 毎日入浴する必要はありますか?

A3. 毎日入浴することが理想ですが、高齢者の場合、体力的な負担を考慮する必要があります。 体調や季節に合わせて、入浴の頻度や時間を調整しましょう。夏場は毎日、冬場は2~3日に1回など、無理のない範囲で入浴することが大切です。  

Q4. 入浴介助が必要な場合はどうすればよいですか?

A4. 家族や介護者に頼めない場合は、訪問入浴サービスを利用する方法があります。 訪問入浴サービスでは、 trained staff が自宅まで訪問し、入浴の介助をしてくれます。  

Q5. 薬を服用している場合、入浴に影響はありますか?

A5. 高血圧や不整脈、鬱病などの薬を服用している場合、特に夜間の温泉入浴では、血圧が大きく低下する可能性があります。 また、塩化物泉の利用も血圧低下に影響を与える可能性があります。 薬を服用している方は、入浴前にかかりつけ医に相談することをおすすめします。  

結論

高齢者にとって、入浴は心身のリフレッシュに役立つ一方、血圧の変動や転倒など、注意すべき点も多いです。加齢に伴い、血管の弾力性や自律神経の機能が低下することで、血圧が変動しやすくなるため、入浴前後の急激な温度変化による血圧の乱高下には十分注意が必要です。

本記事でご紹介したように、入浴前の準備、お湯の温度と量、入浴時間、入浴後の注意点などを考慮することで、血圧の急激な変動を抑制し、安全に入浴することができます。特に、冬場はヒートショックのリスクが高まるため、浴室を暖めておくなど、より一層の注意が必要です。

-老人ホーム・施設