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死後事務委任契約 — 亡くなった後のことを、生前に誰かへ頼んでおく

配偶者も子もいない、あるいは遠方で頼みにくい。そんなとき「自分が亡くなった後の手続きは誰がやるのか」は、考え始めると眠れなくなる種類の問いです。答えの一つが、死後事務委任契約です。葬儀、納骨、部屋の片付け、契約の解約、未払いの精算——役所や相続とは別の、誰かが実際に動かなければ進まない事務を、生前に第三者へ頼んでおく契約。このページでは、何を頼めて何を頼めないか、費用の内訳と相場、誰に頼むか、遺言・任意後見・身元保証との組み合わせを整理します。

頼めること
葬儀〜解約まで
亡くなった後の「事務」全般
頼めないこと
財産の分配
それは遺言の領分
費用の骨格
報酬+預託金
契約書作成費が別途
形式
公正証書が基本
遺言・任意後見と同時に作る人が多い

死後事務委任契約で頼めること・頼めないこと

頼めること ・親族・知人への死亡の連絡
・葬儀・火葬・納骨・永代供養の手配と費用の支払い(生前に決めた内容で)
・病院・施設の退院・退所手続き、未払い費用の精算
・賃貸住宅の解約・明け渡し、家財の処分(遺品整理の発注)
・電気・ガス・水道・電話・インターネット・サブスクリプションの解約
・役所への届出(死亡届は別途届出人が必要な場合あり)、健康保険・年金の資格喪失手続き
・SNS・メール・スマートフォンのデータ削除(デジタル遺品)
・ペットの引き渡し先への連絡
頼めないこと相続財産の分配(誰に何を残すか)— 遺言で
・生前の財産管理・医療同意・施設契約 — 任意後見契約・財産管理委任契約・身元保証で
・死亡届の届出人になること — 届出人は親族・同居人・家主・後見人等に限られる(委任を受けた人が「家主」「後見人」に当たれば可)

「死後の事務」と「相続」は別の仕組みです。相続人がいれば、法律上は相続人が死後の事務を担うことになります。ただ、相続人が遠方・高齢・疎遠で現実には動けない、あるいは相続人がそもそもいない。そうした場合に、受任者が相続人に代わって動けるようにするのがこの契約です。

費用の内訳と相場観

費用は3層に分かれます。混ぜて考えると見積もりが読めなくなります。

① 契約書の作成公正証書にする費用(公証役場の手数料は1万〜2万円台が目安)+専門家に原案作成を頼む場合の報酬(数万〜十数万円)。遺言・任意後見と同時に作ると、まとめて割安になることが多い
② 死後事務の報酬実際に事務を行った対価。頼む範囲で変わり、葬儀・納骨・解約・片付けを一式で頼むと数十万円台(30万〜100万円程度の幅)が一般的な目安。死亡時に遺産や預託金から支払う
③ 預託金葬儀費用・納骨費用・家財処分費・未払い精算など、受任者が立て替えずに済むよう生前に預けておくお金。頼む内容の実費見積もりで決まり、100万〜数百万円。使わなかった分は相続財産として返還される契約にする
見積もりの例 直葬(火葬のみ)+合葬墓への納骨+1Kの賃貸の明け渡し+各種解約を頼む場合。実費の見積もりが、火葬・搬送20〜30万円、納骨10〜30万円、家財処分5〜10万円、未払い精算の予備20万円で預託金 約60〜90万円。これに死後事務の報酬 約30〜50万円、契約書作成 約10〜20万円。合計で100万〜160万円が一つの目安です。葬儀を一般葬にする、持ち家の処分まで頼む、となれば上がります。

預託金は「誰が・どう管理するか」が最大の確認点です。受任者個人の口座に入れる方式はリスクが高く、信託銀行や専門家団体の預り口座、保険(少額短期保険の葬儀保険)で賄う方式など、受任者の財産と分別して管理される仕組みを選びます。

誰に頼むか — 4つの選択肢

司法書士・行政書士・弁護士契約書作成から受任まで一貫して頼める。費用は上の相場どおり。相続・遺言とセットで組み立てられるのが強み。個人事務所の場合は「受任者が先に亡くなったら」の備え(法人化・複数受任者)を確認
社会福祉協議会・自治体の事業一部の自治体が、低所得や身寄りのない方向けに死後事務の支援事業を行う(預託金方式・条件あり)。費用は民間より低いが、対象者の要件と頼める範囲が限定される。まず地域包括支援センターか社会福祉協議会に問い合わせ
民間の身元保証・終活支援サービス入院時の身元保証、日常の見守り、死後事務をパッケージで提供。費用は入会金+年会費+預託金で、総額100万〜300万円台が多い。事業者の倒産・解散リスクがあり、預託金の分別管理・返金規定・第三者監督の有無を契約前に必ず確認
信頼できる知人・親族費用を抑えられるが、受任者の負担が大きく、本人より先に動けなくなるリスクも。公正証書にして、預託金と報酬を明確にしておく

選び方の軸は2つ。その人(組織)が自分より長く存在するか、そして預けたお金が守られる仕組みがあるか。この2つに明確に答えられない相手とは、契約しない方が安全です。

遺言・任意後見・身元保証との組み合わせ

効力のある時期何を決めるか
財産管理委任契約元気なうち〜判断能力があるうち入院時の支払い・役所手続きなどを代行してもらう
任意後見契約判断能力が低下した後財産管理・施設契約・医療費の支払いなど(家庭裁判所が監督人を選任)
身元保証入院・入所のとき保証人としての署名、緊急連絡先、退院時の引き取り
死後事務委任契約亡くなった直後〜数か月葬儀・納骨・片付け・解約・精算
遺言亡くなった後財産を誰に残すか。遺言執行者の指定

おひとりさまの備えは、この5つで「元気なうち→判断力が落ちた後→入院→死亡直後→相続」の時間軸を切れ目なくつなぐ設計です。全部を一度に契約する必要はありませんが、死後事務委任契約と遺言は同時に作るのが定石です。死後事務の受任者と遺言執行者を同じ人にしておくと、預託金の精算と残余財産の引き渡しがなめらかに進みます。

補足
制度の説明としては「契約書を作れば安心」ですが、実務で差が出るのは契約の後です。受任者が死亡を知らなければ、契約は動き出しません。緊急連絡先カードを財布に入れる、かかりつけ医や管理会社に受任者の連絡先を伝えておく、年に1回は受任者と連絡を取る——この「知らせが届く仕組み」まで作って、ようやく契約が機能します。

契約までの流れ

誤解されやすいこと

「遺言を書いておけば、死後のことは全部やってもらえる」— 遺言は財産の話

遺言でできるのは、財産を誰にどう残すか(と遺言執行者の指定)です。葬儀の手配や部屋の片付けを遺言に書いても、それを実行する義務は誰にも生じません。実行を約束してもらうのが死後事務委任契約で、両方そろって初めて「財産」と「事務」の両輪が回ります。

「身元保証サービスに入れば死後も安心」— 契約書の範囲を読む

身元保証サービスの中には死後事務まで含むものと、入院・入所の保証だけのものがあります。パンフレットの「安心」の一言ではなく、契約書の「死後事務」の条項に何が書いてあるか、預託金がどう管理されるかで判断します。過去に預託金が返らなくなった事業者の破綻事例もあるため、慎重に。

チェックリスト — 契約前に確認する

よくある質問

死後事務委任契約の費用はどのくらいですか
契約書の作成費(公正証書の手数料+専門家報酬で数万〜十数万円)、死後事務の報酬(頼む範囲により30万〜100万円程度)、実費を賄う預託金(100万〜数百万円)の3層です。直葬・合葬墓・1Kの明け渡しを頼む一般的な例で、合計100万〜160万円が一つの目安です。
相続人がいても契約できますか
できます。相続人が遠方・高齢・疎遠で現実に動けない場合に、受任者が代わって死後事務を行います。契約の存在を相続人に伝えておくと、死後に行き違いが起きにくくなります。
遺言と何が違いますか
遺言は財産を誰に残すかを決めるもので、葬儀や片付けの実行を誰かに義務づける効力はありません。死後事務委任契約は、その実行を生前に約束してもらう契約です。両方を同時に作り、受任者と遺言執行者を同じ人にするのが定石です。
預託金はどう管理されますか
契約により異なります。受任者個人の口座に預ける方式はリスクが高く、信託銀行の口座、専門家団体の預り口座、葬儀保険などで受任者の財産と分別管理される方式を選ぶのが安全です。返還規定と第三者による監督の有無を契約前に確認してください。
自治体に頼める制度はありますか
一部の自治体が、身寄りのない方や低所得の方を対象に、社会福祉協議会などを通じた死後事務の支援事業を行っています。対象者の要件と頼める範囲が限定されますが、費用は民間より低めです。地域包括支援センターまたは社会福祉協議会に問い合わせてください。

あわせて確認 — 受任者が実際に行う手続きの中身は、役所で行う手続き一覧遺品整理の進め方銀行口座の手続きで確認できます。希望を書き出す素案にはエンディングノートの考え方を、おひとりさまの備え全体はおひとりさまの備えへ。

※費用の相場は一般的な目安で、依頼先・地域・頼む範囲で変わります。本ページは一般的な説明です。契約内容の個別判断は司法書士・弁護士にご相談ください。