売れているもの研究

人の集まる場所をつくる。人との接点をつくる。東京の「私設図書館」ランキング

私設図書館という言葉を聞いたことがあるだろうか?

これは文字通り、公的=市町村が運営する図書館ではなく、企業や店、個人が営業する図書館のことを指す。

今や全国に3,000か所もあり、企業が商業施設の中に作ったり、銭湯に併設されている私設図書館などの変わり種もある。

軸にあるのは「本を通じた人とのつながり」だ。

どうやって人を集めるのか。どうやって人とつながるのか。どうやって人とつながり続けるのか。

私設図書館はそれを考えるうえで具体的なヒントを与えてくれる。

ビジネスを提供している側は、企業であろうと個人であろうと「自分達が提供するサービスで人を集めようとする」が、「それだけではなく、別のツール(本など)を使ってもいいんだよ」とうことが学べる。

というわけで、2019年現在、東京で人気のある私設図書館のランキングをみてみよう。

「こうやって人との接点を作っているんだ」ということがよく分かる。

※ランキングは一般社団法人「まちライブラリー」による2019年6月の集計。

「まちライブラリー」とは、メッセージを付けた「本」を持ち寄り、「人」と出会おうという活動。現在、東京、大阪を中心に全国500カ所以上に設置されてる。

東京 私設図書館人気ランキング 10位~7位

  • 10位:武蔵野市「タッジーマッジー」(雑貨店と併設)
  • 9位:千代田区「TIP*S」(研修・交流施設)
  • 8位:文京区「フミコム」(地域交流スペース)
  • 7位:品川区「キネカ大森」(映画館と併設)

7位のキネカ大森は、女優の片桐はいりさんがチケットの”もぎり”を時折やっていらっしゃることで有名なアットホームな映画館だ。

キネカ大森に併設されている図書館も「まちライブラリー」の活動の一環だ。

「キネマ旬報」など映画雑誌のバックナンバーや映画監督にまつわる本など、映画とつながりの深い本が並べられている。

映画を観ないときでもふらっと図書館に立ち寄って読書を楽しむことができる。その場で読むのは無料で、年間1,000円の有料会員になれば貸し出してもらうこともできる。

借りると返すことが必要になり、映画館との接点が増え、新作の映画情報などに触れる機会も増える。映画館への集客(映画好きな人と深くつながる)という意味でも、効果があると思われる。

キネカ大森の支配人も「映画館にはあまり来ないけど、本が借りられるなら会員になろう、と思ってもえられば嬉しい」と語っている。

東京 私設図書館人気ランキング 6位~5位

  • 6位:世田谷区「文学堂美容院 retri」(美容室と併設)
  • 5位:三鷹市「スズメベース」

6位の「文学堂美容院 retri」は下北沢にある。看板には「本が読める美容室」の文字が。

店内には本棚がぎっしり。本に囲まれたスペースに椅子と鏡があり、「周りが本だらけ」という環境の中でカットやパーマの施術を受けることができるのだ。

ここで並べられているのは、店長が自宅にあった本=自分が影響を受けた本。

美容室は属人的なサービス提供ビジネスといえ、美容師さんと個人的に仲良くなることでリピーターになってもらえる。

店長は「本を通じて共通項が増えればリピーターが増える」などと、ブラック系の計算をしていないと思うが(笑)、本の趣味嗜好が似ていれば、考え方や好きなものも似通ってくる可能性が高く、単純な「美容師と客」を超えた関係性を構築できるかもしれない。

実際に客の6割がリピーターさんであり、「この美容室は心地いい」「新たな本の出会いが毎回ある」と顧客が感じれば、その関係性は長期のものになっていくだろう。

人が美容室を選ぶ基準は様々だが、お互いに関係性が心地よい=仲良くなれるに越したことはない。

人と人をつなげるものとして「本」があるのだ。

東京 私設図書館人気ランキング 4位~1位

  • 4位:練馬区「練馬ねむの木ガーデン」(墓地と併設)
  • 3位:世田谷「カタリストBA」(シェアオフィス)
  • 2位:新宿区「陽運寺」(寺院と併設)
  • 1位:調布市「ウエリスオリーブ成城学園前」(高齢者住宅)

1位のウエリスオリーブ成城学園前は、サービス付き高齢者向け住宅に併設された私設図書館だ。高齢者と地域住民の交流を生む場としても活用されている。

面白いのは、4位の墓地に併設された「練馬ねむの木ガーデン」だ。

墓参りを終えると、すぐに墓地を後にするというのが常識だが、この墓地では「少しでも長く滞在し、故人を偲んでほしい」という願いから図書館を墓地内に設置したという。

小さな建物の中には、ソファが置いてあり、「おくりびと」などの書籍が並ぶ。

この墓地を管轄しているのが、2位の「陽運寺」だ。四谷怪談のお岩さんとゆかりがある寺院で、お岩さんの井戸が境内にある。

縁結びの寺として有名で多くの女性が訪れる。本堂のすぐ隣に私設図書館があり、ここも「まちライブラリー」の活動の一環だ。

棚に並ぶ本は訪れた人が寄付したもの。子育てや美容、恋愛、スピリチュアル系の本が多い。

この図書館をはじめた住職は「もっと人が集まる寺にしたい」という思いがあったという。

実際に参詣者は増えており「神仏を近くに感じて本を読む。その時間の心のゆとりを大事にして欲しい。すがすがしい気分になった、と言ってくれる人も多い」と語る。

ビジネスとしても大事なことを教えてくれる私設図書館

どんな本を好んでいるか、という点はその人のパーソナリティをあらわす要素になる。

なので、個人ビジネスである美容室、クリニック、整体院、ネイルサロン、カフェなどで私設図書館を設けるのは「人を集める」「集めた人と深くつながる」きっかけになる。

広いスペースがない場合、図書館、というほどでもなく、本棚に好きな本を並べておくだけでもいいかもしれない。

マンガでもいいかもしれない。音楽CDでもいいかもしれない。

人は共通項をみつけられると一気に距離が縮まる。

-売れているもの研究
-

Copyright© 「売れない」を逆転する。売れる思考と技術 , 2024 All Rights Reserved.