マーケティングとセールス

三陽商会の新ブランド「CAST:(キャスト:)」は成功する?しない?

2015年にバーバリーとのライセンス契約が終了してから、苦境に陥っている三陽商会。

バーバリーは三陽商会の売り上げの半分を占めており、当初から立て直し策が注目されていた。

以降、「100年着れるコート(トレンチコート)」を販売したり、や英国の老舗ブランド「マッキントッシュ」と提携するなど、立て直しを図るものの、2019年上半期の決算は2億円の赤字と活路を見いだせないでいた。

そんな中、中核ブランドとして立ち上げたのが新ブランドの「CAST:」。

「シネマコマース」=「映画の主人公が来ている服を売る」という今までにないブランド戦略&販売手法をとっている。映画はオンラインでのみ上映され、公式サイトで公開中(Youtube)だ。

これは30分弱の短編映画である。

ジャンルとしては、ライフスタイル&恋愛模様。

登場人物は3名で、キャリアウーマン、パティシエ、シンガーソングライター、という設定だ。

それぞれの女性のライフスタイルや仕事への価値観、ファッション、恋愛観を表現しながらストーリーが進んでいく。

で、画面の上に彼女らの名前が表示され、クリックするとその時に着ているアイテムが表示され、購入することができる、という仕組みだ。

もちろん、映画を観終わった後も「CAST:」ブランドのオンラインショップで購入することができる。

映画の世界観はオンラインだけに留まらず、全国で「CAST:」ブランドの販売店を30店舗展開している。

ブランドイメージを「商品にだけ反映させる」のではなく、より伝わりやすい「映像」「実際の人物像(キャラクター)」によって認知させようという戦略である。

今までにないトリッキーな取り組みで、業界内外から注目されているが個人的には8割は「厳しい展開になる」とみていて、、2割は「うまくいくかもしれない」とみている。

「厳しいな」と思う点は2つ。

CAST:が成功しない、厳しいなーと思う理由2つ。

1つは「映画やドラマに人気が出て、そのキャラクターの服やアイテムが売れる」ことはあるが、「服を売るための映画やドラマをわざわざ見ない」と思われること。

よほど映画が面白ければいいのだが、そんなに面白くない(笑)。

監督や女優が悪いわけではなく、「服を売る」という「映画の面白さ」に全く関係のない要素を入れ込まなけばならない、という時点で面白くはないのだ。

人気のある女優やモデルを起用しているのでオシャレ感は出ているし、彼女たちのファンはもちろん見るだろうが、一般の大多数は「へー」「ふーん」みたいな感覚で視聴するだろう。

共感して、彼女たちの着る服が欲しいな。彼女たちに少し憧れるな・・・とまでは、いかない。

2つめは、「仕掛けられたものに乗りたくない」という心理だ。

映画を観て下さいね、そこで出ている女優の服がすぐに買えますよ・・・こういうことをされると「まんまと乗るのもイヤだわ」という感情が生まれる。

好きな映画があり、好きな女優さんがいて、「あ、これ欲しいな」と思って色々調べて、実際にやっと見つけて買ってみる、というのはなんだか楽しくて、自分のライフスタイルに彩をあたえると思う。

しかし、用意されたものを見てください、買ってください、には若干引くのだ。

こういう心理が多大に影響する、と考えている。

CAST:がうまくいくかもしれない、と思う理由

実店舗がある点だ。

三陽商会は「質のよい服を扱う」という軸は外していないが、20~30歳台の女性に届く価格帯であり、デザインもかなり気合を入れて質のよい服を出している。

CAST:の店舗では、3人の女性キャラクターのコンセプトに合ったディスプレイ、試着室が用意されている。

映画から入らなくても、店舗をみて「なんかいいかも」と思わせる雰囲気があるのだ。

世界観が統一されているので、「服から入って後から映画をみる」→「結構好きかも」となる可能性がある。

似たりよったりのブランドが多いなかで、ここまでハッキリとブランドの世界観を出しているメーカーは少ない。

オンラインで作る映像や、オンラインショップだけなら軽い感じだが、実店舗で展開するとなると重厚になる。

社長、スタッフをはじめ、このブランドに社運を賭けている、という気持ちが伝わってくるので大成功とはいかなくても、三陽商会のビジネスが再び軌道に乗る、くらいの成功は叶うといいな、と応援する気持ちになる。

アパレルで勝つには「他社に負けない個性」「専門特化」

三陽商会の「CAST:(キャスト:)」のビジネス戦略を眺めていて「服を売るために、ここまでしなければ活路を見出せなくなったのか」と、少し背筋が寒くなった。笑

この業界は大きな成功を収めるのが最も難しい業界の1つ、ということがよく分かる出来事だといえる。

  • コモディティ化がハンパない
  • 値段では海外商品(ファストファッションなど)に勝てない
  • 流行り廃りが激しい
  • 高級路線もライバル多すぎ
  • デザインも素材もそんなに差別化できない
  • かさばるので物流のコストがかかる
  • 管理、保管するにもコストがかかる
  • 日本は人口減。かつ若手の給与安い
  • ベーシックな服はユニクロやGUで全部そろう
  • ネット販売でZOZOに勝つのは難しい

こんな中で、小さな店や新興ブランドが勝負をして勝っていくのは相当難しい。

勝つ要素があるとしたら、mina perhonen(ミナ ペルホネン)のような、他社(他人)の追随を許さないデザインと品質で、熱狂的なファンを獲得すること。

あるいは、「ヴィンテージバンドTシャツ専門店」「フレアスカートの専門店」など「これに関しては専門性や品揃えで負けない」という特化を極めることだ。

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