マーケティング用語としてのUSP(Unique Selling Proposition)は、今はよく知られるようになり基本的な用語、考え方として定着しつつある。
ここでは他社の過去事例をみながら、USPをどうやって考えていき、どう確立すればいいのか?という話をしていきたい。
さて、USPとは何かというと、
・「なぜあなたから買わなきゃいけないの」という疑問に対する答えであり、顧客が購入すべき理由を、独自の魅力的な提案として、ずばりひとことで表現するもの。
だ。
USPは商品の核になるコンセプトである。
USPはそのままキャッチコピーにもなりえるが、キャッチコピーというのは基本的には「広告を打つ時に一番先に表記するもの」なので、USPとキャッチコピーが同じとは限らない。
USPは情報過多の中で、たくさんの情報に触れる顧客に対し、購入検討の最初のきっかけ、インパクトになり、記憶や印象に残るものであることが重要になる。
USPとエレベーター・ピッチ
新規創業の盛んな米国のシリコンバレーでは、「エレベーター・ピッチ」といって、起業家はエレベーターで乗り合わせた投資家に対して、15~60秒で事業について簡潔かつ魅力的に提案できなければならない、といわれている。
長くても一分間で言葉だけでプレゼンし、魅力的だと思われなければ投資を受けることができないのだ。
エレベーター・ピッチには有名な逸話がある。
宝石のダイヤモンドを扱うハーツバーグJrがニューヨークのホテルの前でウォーレン・バフェットを見かけた。
ハーツバーグJrは、わずか30秒で自社の説明と投資すべき理由を伝え、バフェットはその場で「くわしい資料を送ってくれ」と返事をしたのだ。
その1年後にバフェットはハーツバーグの会社を購入している。
このような例は奇跡的なものだろうか。
案外、会社での取引も一般の消費者でも「1つのポイント」で購入を決めることが多い。ある程度高額な商品になればなるほど「これが決め手だった」と説明できることは多いのだ。
USPは3つの条件を満たさなければならない
USPを満たす条件は、USPという言葉を理解すれば事足りる。
顧客に向かって具体的な便益(ベネフィット)を提案しなければならず(プロポジション)、
その提案は、競合他社が主張しようとしてもできない、もしくは主張していない、独自なものでなければならず(ユニーク)、
その提案は、強力で多くの顧客を引き寄せられる魅力がなければならない(セリング)。
・・・う~ん、こうしてマジメに考えるとハードルが高そうにみえる。笑
頭で考えると難解になるので、過去の事例をヒントにしてみよう。
過去の事例をヒントに自社商品のUSPを考えてみよう
USPの考え方と実践は、実は江戸時代に(エレキテルで有名な)平賀源内が行っている。
1769年に「ゑびすや兵助」が新たに売り出した歯みがき粉「嗽石香(そうせきこう)」のチラシである”引札”に「はをしろくし、口中あしき匂ひをさる」との見出しを書いている。
「歯を磨くものです」ではなく「歯を白くできる。匂いが消える」というUSPを打ち出し、それをコピーに反映したのである。
また、夏場の売上不振に悩んでいたうなぎ屋に相談されて、土用の丑の日にうなぎを食べると夏バテしないという引札(コピー)を書いて、江戸はおろか日本中のうなぎ屋を大繁盛させたのも源内だといわれている。
少し前のUSPで有名なのは、ドミノピザの「焼きたてピザを30分でお届け。遅れたら代金はいりません」。
このUSPをアメリカで全国展開させたのは1980年代。
ドミノピザは、競合他社のように石窯で焼いた美味いピザなどとはひとことも言わず、ピザの大きさを大小2種類、トッピングを6種類、飲み物はコーラだけに限定し、事前に配達ルートを調べあげ、ひたすら迅速な宅配にこだわり、それを徹底し続けたのだ。
このUSPでドミノはアメリカで一番のシェアを獲得。
日本でも「30分でピザが来なければ無料」というコピーは話題になり、今でもそれを覚えている人は多いだろう。
今では「配達員が焦って事故につながる」という理由でこのUSPは使われていないが、今でもドミノは「2枚目ゼロ円」などインパクトのあるUSPを打ち出している。
2000年代の優れたUSPの例としてはダイソンの「吸引力が落ちない、ただひとつの掃除機」がある。
あの女性の声まで耳に残っているだろう。このUSP&CMでダイソンは白物家電大国の日本でも「掃除機を買うならダイソンを選択肢に入れる」という会社に成長した。
2006年の国民生活センターのテストで、国内メーカーのサイクロン式掃除機のほうが吸引力では強いことが明らかになり、その後は「他のどの掃除機よりも確実にゴミを吸い取ります」にコピーが変わったが、これもインパクトがある。
これはコピーでもあり、USPでもある。
まとめ
USPは当たり前のことだが「事実」に基づいていなければならない。
強力なUSPを打ち出すということは、会社側にも覚悟と責任が発生する。ウソなら訴訟に繋がることもありリスクと表裏一体なわけだ。
商品は凡庸だがUSPがエゲつなく強力、というものは存在しない。
モノが飽和状態の現代では、「商品を作った後からUSPを考える」のはナンセンス。
商品の開発段階からUSPを明確にし、それを実現するために開発をしていく、という姿勢が求められるのだ。
モノではないサービスなら、後から改善はできるだろう。
顧客満足度ナンバーワンとか、地域の受注実績ナンバーワン、などは仕事をするなかでの努力で生み出すことのできるUSPだ。
塾なら合格率ナンバーワン。結婚相談所なら成約率ナンバーワンなども強力なUSPになる。
「さ、USPを考えましょうか」という気楽なものではなく、ビジネスの成否を左右する要素であり、携わる全員がシェアできる会社自体のコンセプト、商品・サービスの根幹となるコンセプトに通じるものなのだ。