まず最初に。
企業にとって、マーケティングとはどんな要素があるのか?
教科書的には以下のように定義されることが多い。
1.市場調査
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2.市場細分化、ターゲティング、ポジショニング
↓
3.商品、価格、流通、販促からなるマーケティングミックス
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4.実行
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5.統制
つまり、最初に市場を調査し、それを分析して「誰に売るのか」、業界内でどんなポジションを築くのかを検討する。
その後、商品をどう設計するか、値段と流通経路をどうするか、販売促進はどんな形でやるのかを検討して決めたうえで実行に移す。
実行に移したらそれをしっかり管理し、そのまま行くのか、やり方を変えるのかコントロールしていく、という感じだ。
ここで重要なのは、スタートが「市場調査」となっていることだ。つまりリサーチである。
市場調査は必要か、必要でないか?
市場(しじょう)、つまりマーケットをリサーチする。
簡単にいえば、世の中のニーズを探る、ということになる。
世の中といえば広くなりすぎるので、コーヒーを売るなら飲料業界の中でどんなコーヒーが好まれているか、売ろうとしているコーヒーが受け入れられそうか?などをリサーチするわけである。
コーヒーといえば「炭酸入り」とか「振ったら泡が出る」などのトリッキーなものも一時的に話題になるが、こういう変化球はなかなか当たらない。
私はサントリーの「クラフトボス ブラック」が好きで、これは大当たり。
スーパーではいつもすぐになくなる。王道を攻めて爆発的なヒット商品になることもあるわけだ。
飲料を出すのは大手のメーカーなので、どの商品も何らかのリサーチをしているし、モニター調査やアンケートなども必ずやっている。
リサーチをしても当たるとは限らないが、リサーチの類をを一切せずに世に出す、ということは稀だろう。
とはいえ「市場に聞く」ということに関しては昔から賛否両論ある。
1979年に登場したソニーの「ウォークマン」。
これを世に出した際、仕掛け人の盛田氏は「市場調査は当てにならん」派だった。
社内でも「録音機能のないカセットデッキなど売れない」という(今ではよく理解できない)理由で大反対されたが、「どこでも音楽を聞けるというライフスタイルは必ず受け入れられる」という信念を持って開発。
後の大ヒットにつなげた。
最近では、iphoneを出したアップルのスティーブ・ジョブスも「市場に聞いて商品を開発する」のではなく、今までにないものを世の中に出すことにこだわったひとりだ。
自動車メーカー、ホンダの創業者である本田宗一郎は「市場調査と女心は当てにならん」という明言を残したという。
確かに「馬車から自動車へ」という大変化が起きるような時代なら、それも分かる気がする。
馬車の時代に、もっと速い移動手段として何がいい?と市場に聞いても、もっと速い馬を産め、みたいな話になるわけで。
自動車という発想は一般市民にはなく、自動車を作るのは革新であり、市場調査からは生まれない、ということも分かる。
ざっくりまとめると「人の意見など聞くな」派もいれば、「人の意見はしっかり聞かないと」派もいるわけで。
実際に商品やサービスの作り方は、大きく分けてマーケットイン(市場のニーズから商品を作っていく)、とプロダクトアウト(市場のニーズは重視せず、作りたいものを作る)という手法の2つがあり、いずれを選ぶか?もよく議論の的になる。
どんなリサーチをするにしても「人をみる」ことは外せない
私が思うに、リサーチはセンスと洞察力である。
ぼんやりと誰かに「何か欲しいですか?」という質問をするのも、市場調査の枠に入るかもしれないが、これはセンスがない。
市場調査ではなく、「人」が何を求めているか、顕在的なものではなく潜在的に「言葉にうまくできないような欲求」はどんなものか、を見極めるセンスと洞察力が必要だと思う。
ウォークマンを開発するにあたって盛田氏は市場調査はしなかったかもしれないが、人のことはすごく考えたはずだ。
「移動しながら、歩きながら音楽聞けたら俺は楽しいし、きっと他の人も楽しい」と。
ジョブスも「Macが持ち歩けて、手のひらサイズになって、電話もできたらワクワクするよね。俺がそう思うんだからみんなそう思うはずだ」と考えたはずだ。
コーヒーのクラストボスには酸味がほとんどない。
これを開発した人は「酸味あるコーヒー嫌いなんだけど。え?お前もそう?だよね。スッキリごくごく飲めて、コーヒーのうまさは感じるやつ作ろうよ」みたいな発想をしたはずである(この辺、想像だけど)。
市場調査、という堅い言葉に惑わされず、「人をみる」「自分ならこういうのがいい」「みんなもこう思うような気がする」みたいなセンス、感性、洞察力を大事にすることが、今後はより一層求められるような気がする。