マーケティング、営業の戦略を練っている段階で「これはイケる!」と思ったビジネスも、実際にはやってみないと分からない。
逆に「そんなことが成功するわけがない」と周囲に反対されたり、一時的に苦境に陥ったビジネスでも、その後に飛躍的に成長することもある。
この記事では、そんな事例をいくつか見ていったうえで「周りの意見は重要ではあるが、鵜呑みにしないでもいい」という話をしたいと思う。
いつの時代も先を予測することは難しい
何でもやってみないと分からない、ということを過去の事例から見ていこう。
古くは1940年代、初期のコンピュータが登場したとき、コンピュータメーカーであるIBMは、世界中で売れるコンピュータはせいぜい5台だ、としていた。
当時は大型コンピューターであり、個人が使うものではなく高額ではあったが、その後の世界=誰もがパソコンを持ち、どこのオフィスや個人の家でもコンピュータがある、という世界は想像すらできなかった。
1950年代、コピー機を開発して販売するゼロックス社は「普通紙のコピー機は全米で5000台以上は売れない」としていた。
その後、日本のゼロックスが普通紙のコピー機を発売したのは1962年だということから分かるとおり、当時はそう売れるものではなかった。
しかし、パソコンの市場拡大とともにコピー機は売れ続け、米IDCの調査によると、2017年のプリンター・複合機の世界出荷台数は1億台だという。
開発当初「売れないから止めよう」となっていれば、この巨大な市場から降りていたことになる。パイオニアとして成功するか、パイオニアなのに降りて機を逸するかは大きすぎる差だ。
1995年7月、米国アマゾン社はオンライン書店としてのサービスを開始し、5年後には計画していた売り上げ高である1億ドルを大幅に超え、16億ドルに跳ね上がっていた。
創業当初、アマゾンは「在庫を持たない方針」だったが、それを180度転換して全米各所に巨大な物流センターを設置していった。
その建設コストにより14億ドルの大赤字を計上したが、いまではその物流網がアマゾン最大の強みであり、他社の追随を許さない要素になっている。
日本国内でも巨大なフルフィルメントセンターが各所に作られ、どんな商品でもすぐに届くという最大の強みを支えている。
アマゾンが赤字になったときは、経済評論家はベゾスの手腕を懐疑的に見ていたが、今やカリスマ中のカリスマ経営者である。
iPhone登場時、マイクロソフトのCEOだったスティーブ・バルマーは、キーボードもない携帯電話のiPhoneに、2年間の通信契約を強制し500ドルを支払わせるというアップルの戦略を鼻で笑っていた。
当時の端末はキーボートを取り付けたものが主流(というか誰もそれ以外のものを知らない)だったので、この意見に賛同して「ボタンがないなんてありえない」という声はかなり多かった。
現在は、スマホに物理キーボードが搭載されているものなどない。
その後iPhoneはホームボタンも取り去った。このときも「ホームボタンがないなんて不安」というユーザーの意見があったが、iPhoneXのユーザーで「ボタンがなくて不便」と言っている人はかなり少数だ。
クラボウの経営者、大原孫三郎やアマゾンのベゾスの名言
クラボウやクラレを育てあげた経営者、大原孫三郎の有名な言葉がある。
「新しいことを始める場合には、10人のうち3人賛成したら実行せよ。逡巡しているうちに先を越されてしまう」
この戒めを、なんと役員会での方針とした。
会議で決をとり、反対7人ならその案は採用、ということになる。多数決なのか何なのか、謎な状況になってしまうが、「役員会でそれをする」ということは、以下にこの基準が重視されているのか分かるだろう。
アマゾンのジェフ・ベゾスも明言を残している。
「意思決定は知りたい情報の70%を入手した段階ですべきで、90%まで待つのは時間のかけ過ぎ」と言っている。
セブンイレブンも「成功しない」と言われ続けていた
かのセブン・イレブンも黎明期は、「米国とは違って日本では小さな商店はすでに過剰となっており、コンビニエンスストアなど成り立つはずがない」という流通の専門家やイトーヨーカ堂の反対を押し切ってスタートしているのだ。
今になってその話を聞けば「なんてバカなコメントなんだろう」と思うが、反対意見のほうが大多数だった、というのは有名な話だ。
とはいえ、出店をし続けたら今のようになった、というわけではない。
1974年、東京都江東区豊洲に出店した第1号店で、社員が店の掃除を手伝っていると、売れる商品は品切れし、売れない商品はほこりをかぶっていることに気がついた。
店主になぜ売れる商品を仕入れないのか聞くと、黙って店の2階の居間に案内された。
すると、そこまでケース単位で納品されてくる商品の在庫で満杯となり、次の仕入れができなくなっていたことが判明。
そこで、社員は3000種類の商品の売上伝票を毎日深夜まで手作業で集計し、単品管理によって売れない商品を見つけて排除、売れ筋商品を品揃えすることにした。
そのために、問屋に日参して粘り強く説得して小分けでの配送を実現していき、地域の商店を回って説得して集中的な出店を実現していく。
その後、1982年には、物品販売の売上実績を単品単位で集計するPOSシステムを日本で初めて本格的に全店舗に導入したのだ。
こうして、その後の飛蹄的な成長をもたらすことになる単品管理、小分け配送。ドミナント(高密度多店舗)出店という3つの基本戦略そのものを編み出し、在庫を減らしながら品切れを起こさず効率的に売れるしくみをつくりあげたのである。
さらにセブンイレブンが1978年にコンビニエンスストアでは初めておにぎりやおでんを売ることにしたが、そのときも「売れるはずがない」と周囲から笑われている。
さらには2001年にATM専門の銀行であるセブン銀行を世界で初めて設立し、店内にATMを設置した。そのときも、「絶対にうまくいかない」と猛反対されている。
マンガのようなストーリだが実話である。おにぎりやおでん、セブン銀行はセブンイレブンの中核商品・サービスになっている。
ドーナツは失敗したがコーヒーは大成功するなど、色んなことがあったが、常に創意工夫を重ね、なくてはならないコンビニに成長したのだ。
やってみなくては分からない
かつて、YouTuberなどという職業は成立しないと誰もが思っており、子がYouTuberになりたいと言い出したら親は頭を抱えたものだ。
しかし年収10億円を超える人が何人も生まれてくると、人気職業として定着した。
思うに、「誰かが反対したことが成功する」というよりも、「誰が反対して、誰が賛成しているのか」が重要になるといえる。
親や教師、保守的な仕事の人、保守的な考え方の人は「新しいタイプのビジネス、職業、サービス」に反対する傾向が強い。
しかし、ネットビジネスを深く知っている人、様々な情報を網羅してビジネスの経験が豊富な人(ホリエモンなど)は、新しいビジネスを面白い、という可能性が高い。
逆に「本当にそれはダメ」というビジネスは「ダメ」「センスがない」というだろう。
周りの意見(自分の周りの一般人)は流すべきだが、そうでない人の意見は参考になる確率が高い。
要はこれもセンスである。「誰に意見を求めるか」も含めてビジネスセンスなのだ。
それでも、自分の感覚に自信があれば「まずはやってみる」が正解なのだろう。やってみて分かったことは学びであり代えがたい経験である。