売れているものを研究して、自社に活かす・・・ということで今日のテーマは森永乳業の名作アイス「パルム(PARM)」。
国内のアイスバー部門で一番売れている、ということで、誰もが味わったことがあるだろう。私も大好きである。
ふんわりとしたチョコレート、甘すぎない中のバニラ。
あの食感を出すのに、相当な開発の苦労があった、というのはよく知られた話。2005年に発売されてから少しずつ改良がされているらしいが、「あの形」は変わっていない。
これまでアイスバーといえば四角いのが一般的だったが、パルムは角がなく、まるーい独特な形をしている。
その形にはどんな理由があり、ヒットに繋げているのか?という話。
なぜパルム(PARM)はあんな形をしているのか?
パルムはこんな形。
では、なぜこんな形をしているのかというと明確な理由がある。
森永の食品開発研究所、岩井氏によれば「どこから食べてもチョコとアイスのバランスが同じになるような形にした」とのことだ。
なるほど・・・
四角いアイスバーだと、角の部分のチョコが分厚くなりそうだが、そういうことがないように設計されたらしい。
「チョコとアイスの融合」にとことんこだわり、一番美味しく食べられる形を追求したらこうなったのだ。
食感が第一の理由とはいえ、結果的に他にない独特な形になり「この形はパルム」という印象づけられたのは大きい。
美味しく食べた経験=味だけではなく目で見た記憶もしっかり残るのだ。
記憶はさまざまな感覚に触れたほうが深くなる。
余談だが、勉強で暗記をするときも「読む」だけでなく「書く」「声に出して音読する」をプラスさせると記憶が残りやすいのと同じだ。
とはいえ、発売当初(2005年)から売れたわけではない
森永乳業のマーケティング担当、宇田川氏によると、発売当時、箱入り6本入りのアイスバーの平均価格は300円だったそうだが、パルムは350円という金額をつけた。
開発費はもとより、高品質のチョコを使うことで材料費が高く、最低でもこのくらいの価格設定にしなければ採算が合わないのだ。
しかし、この「ちょっと高い」という中途半端な価格設定が裏目に。なかなかスーパーに置いてもらえず苦労したそうだ。
そこで来場者を喜ばせるあるイベントを行い、それをきっかけに徐々に売り上げを伸ばしたのだ。
それは「できたてのパルムを自分で作って食べられる」というもので、チョコなしのパルムバーを客に渡し、最後にチョコをつけてパルムに仕上げてその場で食べられるのだ。
パルム最大の特徴は「アイスの冷たさだけでチョコを固める」という独自の製法。それによりチョコが固くならず、しっとりと柔らかいチョコに仕上がっている。
その特徴を生かして「最後のチョコ固めの工程を体験してもらい、こだわりと美味しさを知ってもらおう」というわけだ。
全国各地のスーパーで「チョコで仕上げる」イベントを実施し、徐々に人気が高まっていった。
最近の(2019年の)パルム販促のPRとは?
すでにロングセラーのパルムで根強いファンも多いが、最近では「パルムをつかったアレンジスイーツ」を提案している。
例えば「パルムサンド」だ。
- サンド用のパンを用意する
- パンにパルムを挟み、バーを抜く
- 好きなジャム(オレンジなど)を塗って完成。
その他にも、ブランデーをつけたり、ナッツをまぶしたり、と様々なアレンジを提案している。
売れているものをさらに売る、というマーケティング的にもかなり優れた考え方で、何よりお金があまりかからない。顧客にアイデアを提供し「おいしそー」と思ってもらえれば「明日、パルム買いにいこ」となる。
オリジナルパルムを作れる店舗も。
静岡県は三島にある「大社の社」には森永のMOWやパルムの製造工場が直営しているアイスクリームショップ「パルモフジ」がある。
ここではパルムのアレンジトッピングが体験でき、50種類以上のトッピングが楽しめる。広い範囲の店舗展開はしていないため、東京や大阪、名古屋から遠路はるばる訪問する人も多いらしい。
また、沼津や箱根など、周辺の観光地のスケジュールの1つに組み込む人も。
アイスバーは山ほど商品がある、いわば「飽和商品」だったが、苦心した商品開発やイベントでその魅力を伝えれば、これほど支持される商品も作れるという好例だ。