ある分野で成功を収めたからといって、そこに安住し続けるのは難しい。
”盛者必衰”は昔からあり、近代ビジネスでも証券会社がつぶれ、銀行がつぶれ、大手家電メーカーが不調の末に外国企業に売られる、ということも起きている。
なので、成功を収めた企業は「横展開」を狙いに行く。
特定の分野の成功で得た「名声やブランドイメージ」を利用して、他の分野でも頭角をあらわし、シェアを握ろうとするのだ。
ビジネスを横展開するときのコツは何か?
名声やブランドイメージというのは、もれなく「顧客」が持っている。
あの会社はこんな感じ、この会社はこんな感じ・・・とボヤーっとしたイメージを持っている。(ボヤーっとしていることが特徴だ)
日本ではiPhoneが人気だが、それは多くの人がAppleがイケている、と思っているからだ。
具体的に言葉でAppleを好きな理由を語るのではなく「なんとなく好き。オシャレ。洗練されている。外れがない」などとボンヤり思っている。
WindowsやMicrosoftに関しては、先進企業というよりも「古い時代の巨人」みたいな感じだろう。安定していて影響を持つが、先端に居る会社じゃないよね、というイメージだ。
独断の偏見だが、そう外れてないだろう。
重要なことは「顧客がボンヤリと感じている企業イメージ、ブランドイメージを、企業は明確に、きちんと言語化して認識しなくてはならない」という点だ。
簡単にいえば「みんなからこう思われている」について、”ハッキリと知る”ことだ。
横展開がうまくいかなかった会社は「ハッキリさせていなかった」ので、元々のブランド力が活かされなかったのだ。
逆にうまくいった会社は「細部まで自分がどう思われているか、どこがなぜ好かれているか知っていた」といえる。
ユニクロは農業に進出して失敗した
もうだいぶ昔の話になってしまうが、誰もが知る「ユニクロ」は2002年に生鮮野菜事業で失敗している。
これは横展開というより多角化、という感じだが、当時ユニクロは「衣料品販売で成功した経営手法を用いて、良い野菜を安く、早く届ける」というコンセプトを打ち出している。
衣料品と並ぶ、ビジネスの主軸にしたいと考えていたが、生鮮食品ならではの安定供給や在庫管理のノウハウに乏しく、物流もうまくいかず、わずか一年半で生鮮野菜事業から撤退した。
大規模なビジネスなので、失敗には様々な要因があるが、主要な原因として「ユニクロがやっているから買う。応援する」という顧客イメージが湧かなかったことがあると思う。
当時の私もそうだが、「ユニクロの服は買うが、野菜は別に・・・」という感覚の人が多かったはずだ。
ユニクロに対して持つイメージは「安くてそこそこ着れる、手ごろな服」であり、そこに好感を持つ人はたくさんいたが、野菜を出したところでピンとこないのである。
横展開というよりは、「だいぶ向こう側で遠い」分野だったといえる。
ライザップの多角化失敗は、かなり良い教科書
ライザップは、ゴルフ、英会話、料理教室などに進出した。
が、2019年時点ではどれも成功とは言い難く、事業の選択と集中を迫られているという現状だ。
個人的には、ライザップはかなり「良い教科書」で学ぶことがたくさんある。横展開の狙いどころが独特で面白いのだ。
ライザップはダイエット市場で成功を収めた会社で、ブランドイメージは「ダイエット」にある。
ゴルフ、英会話、料理はあまり関係ないように思われるが、瀬戸社長が事業を展開するうえでの狙いは「自己投資産業」だった。
ライザップ社の強みを「やりきらせる力」と認識し、「途中であきらめがちな、自己投資物件」に横展開の分野を絞ったのだ。
それがゴルフ、英会話、料理、である。
しかし、これらのビジネスはたいして成功せず、高い収益を上げるには至らなかった。
その後、ライザップは「自己投資産業のみ」というコンセプトを翻し、インテリア、アパレル、ゲームや音楽CD、フリーペーパーの会社まで買収を進めていった。
その結果・・・どれもパッとせず、2019年に業績予想を大幅に下方修正する事態になったのだ。
彼らはチャレンジャー精神を持ち、最前線で闘うビジネスマンなので、後から起きたことを突っついて楽しみたいわけではない。
ただ、ビジネスの成功・失敗という意味ではとても参考になるのだ。
まず、当初の「自己投資産業」「コミット」というコンセプト。「結果にコミットする」はライザップのキャッチコピーみたいな言葉だが、果たして客はどう思っているのか?
ライザップのことは多くの人が知っているが「コミットしてくれる会社だよね」「結果を出さしてくれる会社だよね」と思っているのか?
違う気がする。
「CMが面白い」「お金払ったら痩せられる」「筋トレと糖質制限」というイメージのほうがずっと強く、スポーツ、英会話、料理などとはあまり結びつかない。
というか、「客に好かれている」というイメージがまだない。
歴史もまだ浅く、根強いファンもさしておらず、ブランドは「知られているが、好感までは行ってない」のだ。
だが「自分では、コミットする力がイケると思っている」「世間にそう思われている」と思って事業の分野を決めている。
世間=顧客が持つイメージと、自分が「こう思われている」というイメージが乖離しているのだ。
ましてや、インテリア、アパレル、音楽、フリーペーパーとなると、ほぼ関係ない分野になる。
ライザップがやる意味はほぼなく、単純に異業種に進出した、という結果になり、当然昔からそこで闘っている会社に勝つのは難しいし、顧客の支持も得られない。
後から言うのは簡単だが、うまくいく要素がなく、失敗する要素がたくさんある事業戦略だったのだ。
進出した分野の中で、ブランド力を生かせそうなのは、ファミマで展開されている「スイーツ」だ。
低糖質で、ダイエットを意識している人がターゲットなので、ブランド力が活かせそうな分野ではある。
が、個人的にはこれも失敗すると予想している。
ライザップ=スイーツのプロではないからだ。
スイーツを食べるなら、有名パティシエ監修とか、有名店のプロデュースとか、そういうものを選ぶ。ライザップに「食べ物がおいしい」というイメージがないのだ。
彼らがやるべき分野は、シックスパッドなどの筋トレ周りの器具や機器、筋トレのノウハウ、健康食などを深堀することだったのではないか、と思う。
「まだ好かれてない」「まだイメージは限定的(ダイエットと運動と食事)」という自己分析ができていれば、遠くに手を出して失敗することなく、地道に得意分野を固めていくことができたのではないか。
イメージは「自分で言ったらそうなる」「自分がこう思う」のではなく、「客(市場)が決めるもの」なのだ。
横展開が素晴らしいのは、ダイソン
ユニクロ、ライザップは、横にしては「遠かった」のだ。
遠いというのは、「顧客のイメージからどれだけ近いか、遠いか」でいう「遠い」である。
その点、横展開の仕方がビューティフル、と感じるのがダイソンだ。
ダイソンは1991年に創業した会社でサイクロン式掃除機を初めて開発、製造した。
1990年に第一号のサイクロン掃除機を開発してから、愚直なほどに掃除機一本で勝負してきた。ダイソンといえば掃除機、である。
家電大国の日本国民の目は肥えているが、そのデザインと真摯なものづくりは高く評価され、信頼できる会社としてブランド力を高めていった。
そして掃除機のあと、彼らが作ったのは、ドライヤー、エアプライヤー(扇風機)、ファンヒーター、空気清浄機などである。
ダイソンに対する我々のイメージは「吸引力」「モーター」そして「風」である。
実際にダイソンの技術の強みはモーターやフィルターである。
横展開するときも、そこを外さないのだ。
彼らは冷蔵庫や電子レンジを作らない。
顧客が好感を持っている「ダイソンの良いブランドイメージ」をきちんと把握しているのだ。
「細部まで自分がどう思われているか、どこがなぜ好かれているか知っている」から外さない。
ダイソンの扇風機は機能を信頼できるし、デザインも革新的だ(羽がない)。ロボット掃除機も信頼感が高い。
顧客の「好き」と「出しているプロダクト」がマッチするから、売れる。
なお、彼らは長年、自動車分野へ投資をしている。次世代の自動車の動力はエンジンではなく、モーターになる。
来るモーター自動車の時代に、市場を席巻するために牙を研いでいるのだ。
うーん、カッコいい。
まとめ
表参道のモスカフェにふらっと入って「モスチキン南蛮ご飯」と「紅茶オレンジカップケーキ」をいただきながら、「別業種へ進出するときに成功するコツ」について思いを巡らし、今回の記事を書いてみた。
名の知れたブランドを作り上げ、誰もが知るようになることは並大抵のことではない。
それをうまく活かした横展開なら、まず成功する。
モスカフェは、小さな横展開だが、モスカフェもたぶんこのまま成功を続けるだろう。
モスには「美味しい」というイメージがある。そこに老舗ブランドが持たれる「安心」もある。
美味しいバーガーを出すところが、美味しいランチを出すなら寄りたいし、知らないカフェに行くより安心なのだ。
インテリアも洗練されているがオシャレすぎず、ひとりでもフラッと入れる。実際にお昼前には店内は満席になった。
つくづく横展開の肝は「顧客から見たイメージ」に尽きると思う。
顧客が持つ、自社のブランドイメージの「良い部分を把握し、活かすこと」。
もちろん口で言うのは簡単だが、これを外した横展開は成功しないか、かなり苦しい道を歩むだろう。