かっぱ寿司には嫌な思い出がある。
2008年頃だった。
それは「寿司を食べて、はじめて気分が悪くなった」という経験だ。
忘れもしない、かっぱ寿司のホタテ寿司。
たぶん鮮度が低かったのだろう。それ以来かっぱ寿司に行くことはない。
基本的に日本国内で「寿司がマズい」というのは考え難い。ありえない。
それなりのシャリ、それなりのネタでそれなりに食べられる。デパ地下で売っているパック入りのお寿司でもマズくはない。
かっぱ寿司の寿司はそれ以下だった。
案の定、かっぱ寿司の業績は低迷を続け、他店(スシローやくら寿司)の躍進もあって、店舗には閑古鳥が鳴く、というありさまだった。
その状態を打破しようとかっぱ寿司が考えた戦略が「平日限定14時~17時、食べ放題」だった。
来客数の少ない時間帯で「テスト」をしたのだ。
それ以降、ある程度の成果を挙げ、情報(どのくらいの売り上げがあり、かかる原価やコストはどれくらいか)を収集できたのだろう。
2019年6月17日から限定を大幅に解除し、ランチタイム(11時30分~14時)、ディナータイム(17時~20時)にも拡充した。(平日のみ)
テストの後、勝負に打って出たのである。
さて、この「かっぱ寿司 食べ放題」は成功するのだろうか?
結論からいうと、この4点がポイントになる
- 美味しくなっているかどうか
- ランチは厳しいぞ
- 来客が期待できる年齢層次第
- 他社の動向次第
食べ放題だろうが何だろうが、飲食店は「費用対満足度」に尽きる
飲食店における満足度とは「美味しいかどうか」である。
もちろん、店が綺麗、従業員の感じがいい、立地、座席の座り心地、清潔感、など色んな要素はあるが、これらはマイナス要素にこそなれ、プラス要素にはならない。
それぞれ基準を達していることが大事で「不合格」でなければよい。
美味しくなければ、店が綺麗だろうが、従業員の対応がよかろうが客はこない。
「回転寿司に期待している味のレベル」は年々上がっている。
スシローやくら寿司、はま寿司など他の寿司チェーンが出している味が基準になる。このレベルと同等、許せても「ちょっと下」くらいのものを出せるか、が一番重要な部分になる。
とうぜん、許せるレベルは「金額」に比例するのだが。もしワンコイン(500円)の食べ放題なら、過去のかっぱ寿司の味のレベルでもなんとかなるだろう。でもそんなことは現実的にはできない。
1.美味しくなっているかどうか
外食に行って「腹いっぱい食べない」という人はあまりいない。店から出て「物足りないな」なんて感じたくはないので、人それぞれ「これだけ食べれば満足」という量をあらかじめ注文する。
お腹いっぱい食べること(満足するまで食べること)は外食における基本なので「いっぱい食べれられる」は最重要項目ではない。
(若くて貧乏、あるいは体育会系の大学生、など「多少マズくても腹いっぱい食べたい」という層はいるが)
なので、美味しいかどうか、が選ぶ基準になり、味がよければよいほど人気が出て売り上げは伸びる。
味は個人の好みにもよるが、想像できるのは「回転寿司の味としては80点くらい」レベルである。
「マズくて客足が遠のいた」事実は、かっぱ寿司も認めており、戦略本部長である林氏は「かっぱ寿司の悪いイメージである、安っぽい、おいしくないというイメージを払拭するために努力をしてきた」と会見で発表している。
現在の口コミなどをみるかぎり、スシローやくら寿司、はま寿司を抜いてトップ、というところまではいかないようだが、そこそこ美味しく食べられるという声が多い。
なので、回転寿司としては80点くらい、といえそうだ。
次にこれに対して「費用がどうか」という点である。
かっぱ寿司の料金設定
かっぱ寿司の食べ放題にはいくつかコースがあるが、ベーシックな「レギュラーコース」は男性で1,680円だ。
【かっぱ寿司の食べ放題の料金設定(税別)】
・レギュラーコース(80種類食べ放題)
男性:1,680円、女性:1,580円
小学生:780円、シニア:1,280円
・スペシャルコース(100種類)
男性:1,980円、女性:1,880円
小学生:980円、シニア:1,580円
・プレミアムコース(110種類)
男性:2,480円、女性:2,380円
小学生:1,240円、シニア:1,980円
※すべて60分以内
※ドリンクバーつき
2.ランチは厳しいぞ
なぜランチとディナーを同じ設定にしたのか疑問だ。
大人で1,680円のランチ。まぁまぁ高額なランチ料金である。
割烹や小料理屋でも、1,800円くらいのランチを出しているし、1,000円出せばかなり満足度の高いランチが食べられる。
寿司としても、スーパーやデパ地下で変えるお寿司のセットは1,000円前後でそれなりのものが食べられる。
女性となれば量は食べないし、食べ放題のメリットは男性より低下する。
平日昼に、小学生はランチを食べには来られない。
なおかつこれは税抜きの金額なので、大人の男性だと1,800円を超えてくるのだ。
このくらいの金額を出してかっぱ寿司をたらふく食べたいか?となるとかなり微妙。
ランチは料金設定を見直したほうがよい。おそらくさほど人気にはならない。
3.来客が期待できる年齢層次第
立地によって、どんな客層が期待できるかは変わってくる。
ディナーで「レギュラーコース」はそこそこ需要がありそうで、客の立場から一番魅力的なのは「シニアが小学5,6年生を連れてくる」というケースだ。
同伴するおじいちゃん、おばあちゃんは1,280円でディナーでお寿司を食べられる。味が80点のお寿司を孫を連れて楽しめる、というのはなかなか魅力的である。
また小学生でも男子で5年生、6年生となればかなりの量を食べる。エンゲル係数が高くなってくる年頃で、ディナーを780円で食べられるというのはかなり良い。
しかもお寿司、食べ放題となると嬉々としてやってくる子供たちは多いだろう。
なので、三世代家族が多く住むエリア、二世帯住宅が多い「郊外でも立地のよい住宅街」に近い店舗はこれらの層を中心に、家族に支持される可能性が高い。
一般的な家庭で、父親と母親と子供で来店する、というケースもディナーなら悪くない。平日が20時までというのは微妙なラインだが、早めの時間でOKという家族なら「予算を決めてお寿司をお腹いっぱいみんなで食べる」のは楽しい時間だ。
4.他社の動向次第
あらゆる戦略は「うまくいけば、他社に真似される」のが運命だ。
もし、食べ放題戦略によってかっぱ寿司の業績が上がった、となれば、ライバル他社もそれは丸見えになる。
「かっぱさんがうまくいっているなら、ウチもやるか」となるわけだ。
スシローなど、他のライバル店が同じ料金設定でやりだせば、「そもそもイメージで負けている」かっぱ寿司は再び客をとられ、苦境に陥る、という仕組みになる。
そうなる前に、かっぱ寿司としては負のイメージを払拭しておく必要があるのだ。
結局のところ「1.美味しくなっているかどうか」なのである。
飲食店として、打てる戦略は色々あるが、健全に利益を出し、長く安定した経営をするためには「美味しいかどうか」に尽きる。
寿司は生鮮食品を扱うため、美味しさを保つには水揚げ、産地、流通など整備するべき部分が多いので、今後は「過当競争→寿司チェーンの合併」も進んでいくことが予想される。
こうやって食文化が発達していくのは喜ばしく、客として「どんどん美味しいものが安く手に入りやすくなる」のは有難いことだが、競争を続ける会社はいつまで経っても厳しい競争を強いられるのだ。
・・・というわけで、気が向いたらかっぱ寿司、行ってみよう。
いや、行くのか?笑
刻まれた記憶というのは払しょくが難しい。
一度ついたイメージを回復するのは簡単ではない。